同僚の保健室の先生から交際を迫られています! (Page 4)

「やっぱり忘れちゃったんですか…?相田先生、そこの引き出し開けてもらってもいいですか?」

明石は部屋の扉近くに置いてある小さな本棚を指差す。上段は本棚だが、下段は引き出しになっているようだ。オレは言われた通りに引き出しを開ける。

「これは…」

引き出しの中には1枚の賞状が入っていた。

『蔵川高校バスケットボール部』とそこには印字されていた。

「僕、蔵川高校のバスケ部だったんです、先輩も蔵川高校出身ですよね?」

そうか、明石は同じ高校出身だったのか。オレは高校時代、料理部だったのでバスケ部と関わったことは一度もなかったはずだ。

「覚えていないですか?僕と保健室で会ったこと」

保健室、バスケ部。

「あ!!もしかして!」

オレは1つの記憶にたどり着いた。それは、保健室で泣いていたある男のことだ。

「あの日、大会前日の練習で、僕足首捻っちゃったんですよ。それで試合には出れないって言われて、その大会は先輩の引退戦でせっかくベンチ入りしたのに、すごいショックで、一人で保健室の端っこでへこんでたんです。そしたらたまたまやってきたあなたに声をかけられて」

『おわっ!お前こんな隅でどうした!?怪我したのか?ちょっと待ってろ!ほらこれやるよ!』

「その時先輩は、手作りクッキーくれたんです。でもそのクッキーは」

「失敗作だったよな。オレあの時砂糖と塩間違えて焼いちゃったんだ」

『それ、しょっぱいだろ?涙出ちゃうくらいしょっぱいよな。だからたくさん泣いていいぞ。』

「先輩は泣いてもいい口実を作ってくれました。僕は悔しい気持ちを全部吐き出して声をあげて泣きました」

思い出した。初対面だったけれど、どうしても放っておけなくて、その日作った失敗したクッキーをあげたのだ。それがまさかこいつだったとは…

「僕はその時先輩のことを好きになりました。先輩が学校の先生になったって聞いて、もしかしたらいつかどこかで再会できるかもしれないって思っていました。それで今回赴任された先に先輩がいたんです」

そうだったのか、だから明石はオレの名前を知っていたのか。

「忘れていてごめんな」

オレは明石の頭を撫でた。ずっとオレのことを思っていてくれたのに、気持ちを無視してしまっていた。ちゃんと話を聞けばよかった。

「先輩、僕はまだ先輩のことが好きです、忘れられていても、ずっと好きです」

ふと明石の方を見ると、明石は目に涙をたくさん浮かべていた。

あ、綺麗、オレはその目を見てそう感じた。そして次の瞬間、オレは明石にキスをしていた。

「あっ!ご、ごめん、明石が、その、綺麗だったから…つい…」

オレは慌てて謝る。考えるより先に体が先に動いてしまった。

「…気持ち悪く…なかったですか?」

明石は俺に聞いた。そういえば、不思議と嫌な感じはしなかった。

というかよく考えるとオレはこいつに告白されて戸惑いはしたが、嫌だと思ったことは一度もなかった。

オレは首を横に振った。

「もしかしたらオレ、実は明石のこと気になっていたのかもしれない」

今日だって本当に嫌いならここまでこないはずだ。

「…先輩、もう一回キスしていいですか?」

オレはゆっくりと頷いた。

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