我慢しないで声出して

・作

工藤先輩の声はかっこいい。恋人である日向は彼の声が大好きだった。しかし、なぜかセックスのときになると工藤先輩は声を出さなくなってしまう。夜の先輩の声がどうしても聞きたい! そう思った日向は工藤先輩をベッドに押し倒して迫ろうとするが……。

「っ……、ぁ。んっ…………」
「工藤先輩。声出してくださいよ」
「…………んっ! くぅ……、……はっ」

 乱れたシーツの上。汗ばむ肌をくねらせて、工藤先輩は枕を噛んで震えていた。
 白い肌は熱く火照り、指先で撫でただけで過敏にビクッと痙攣する。張りつめた快楽に涙をボロボロと零す工藤先輩は、それでも声を出そうとはしなかった。

「先輩」
「ん、ぅっ。っ。…………!」
「せぇんぱい」
「――――!」

 指先で彼の中をズリッと強く擦る。甘く膨らみ敏感になったそこを刺激された彼は、ビクンと大きく体を跳ね上げて絶頂した。
 彼が上げたであろう悲鳴はすべて枕に沈んでしまう。は、は、と必死で息を整える彼の肩に顔を埋め、すりっと頬を擦り寄せた。

「ねえ。声聞きたい」

 甘えた声で言ってみる。
 それでも工藤先輩は枕を離してくれなかった。

*****

「工藤先輩の声ってかっこいいですよね」
「……なんだよ急に」

 ソファで本を読んでいた工藤先輩は、俺の言葉に怪訝(けげん)な顔をした。サークルの女子が言ってたんすよと、俺は彼の背中に抱き着きながら言う。
 工藤先輩の声ってかっこよくない? わかる。低くて甘い声っていうか……ドキドキしちゃう。男の人って感じの声だよねぇ。
 昼に学食で聞いた会話を思い出す。うんうんと頷きながら、俺は工藤さんの顔を見つめた。

「イケメンって感じの声じゃないですか」
「俺は日向の声もいいと思うけど」
「え、マジ? かっこいいですか?」
「元気いっぱいで小学生みたいな声だ」
「ニ十歳の男に対する誉め言葉ではない」

 工藤先輩はあははと小さく笑って、俺の髪を撫でた。その声すらもかっこいいなと俺は思うのだ。
 工藤先輩の声は俺も好きだ。会話をするときの笑い声や、一緒にカラオケに行ったときの歌声。俺よりも低く、けれど喧騒(けんそう)の中でもよく通る、イケメンの声。
 彼の声に耳を傾けるうちに言葉数が少なくなっていく。彼もまた静かになって、俺の顔を見つめた。視線がかち合えば何となくふっと空気が変わる。無言で彼の手にそっと手を重ねれば、その指先がぴくりと震えた。

「先輩。明日、何限からですか?」
「…………何もないよ」
「俺もです」

 明日の一限は自主休校に決めた。工藤先輩は少し視線を泳がせて、薄い唇から熱っぽい溜息を零した。
 俺は工藤先輩の声が好きだ。
 だけど夜の工藤先輩の声を聞いたことは一度もない。

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