始まりの予感 (Page 4)
「んぐっ…んぅ、ぇあ…はぁむ、んぅ…」
「…先輩」
「…はぁ、んっく…はあ…」
「きもちいー?」
「ん、気持ちい」
唇が離れて、くったりと海斗に寄りかかる。
「…きもくねぇの?」
「ん…? 何がだ?」
「はぁ…。お人よしすぎだろ」
「何がだよ!」
海斗は俺の耳をこしょこしょとくすぐりながら、おでこへとキスを落とす。
「俺、聡さんのことずっと好きだったんすよ」
「……。え!?」
俺が好き!?
海斗が、俺を!?
「昨日、酔わせてお持ち帰りしました。セックスしたの覚えてる?」
「…せ、っくす? あ、ああっ! お前!!」
「すみませんでした。でも俺…」
「『すまん』で済む問題じゃないわ!」
俺を酔わせてお持ち帰りした?
ってことは、ってことは!
「俺がお前におごりたかったのに!」
「……。は?」
「いくらだ? さいふ、財布どこだよ!?」
「あの、先輩?」
「何!!」
あークソ!
後輩におごられるなんて先輩失格だ。
それも一番、可愛がってる海斗におごらせるなんて。
「そんなことより気にするところあるんじゃないですか?」
「はあ? そんなことだと!?」
「え、だって先輩、俺に…」
不安気に俺を見る海斗に、俺はため息をついた。
「俺が好きってことか? 寝込みを襲ったことか?」
「…はい」
「そんなの大した問題じゃねーよ」
俺を好きだってことには驚いたけど。
だってこんないい男が、男で年上の俺を好きだと思うか?
普通、思わねーよ。
「むしろお前の気持ちに気づけなくて悪かったな」
「いや、先輩が謝る必要は…。ってか先輩、本当に女としか付き合ったことないんすか?」
「そうだが? それがわかってて俺を好きなんだろ?」
「そうですけど…。そうじゃなくて、対応力がありすぎるというか…」
「対応力?」
「俺とセックスしても、俺に告られても、対応がよすぎというか…。キモイって普通は…」
海斗は珍しくグダグダとものを言って、俺から視線を逸らす。
「まぁ、びっくりはしたけど…。でもお前は悪ふざけでこんなことしねぇだろ?」
「ふざけてなんか…!」
「わかってるって。別に男同士でどうとか思わねえし、今時珍しくもない。純粋に嬉しいよ。俺を好きでいてくれんのは」
「先輩、やっぱカッコイイっすね」
「そりゃどうも。──告白の返事は悪いが待ってくれ。これから考える」
「はい。先輩ならそう言ってくれると思ってました」
「調子のんな」
あ、でもこれだけは言っておかねえと。
「二度と先輩におごんなよ」
「先輩におごってませんよ」
「はぁ? …んっむ!?」
予告なく唇が重なり、さっきとは違って触れるだけの柔らかなキスをされる。
「未来の恋人におごっただけなんで」
「未来って…俺がお前を好きになるかどうかなんてわかんねえだろ」
「わかりますよ」
「はあ?」
海斗は俺の後頭部を押さえて、今度はコツンッとお互いのおでこをぶつけた。
「先輩のことずっと見てたんでわかります。それに体の相性はいいですし、ね」
「言ってろ」
そして近づく唇にまぶたを閉じた。
俺にも少しだけ『未来の予感』があったことは言うまでもないだろう。
Fin.
最近のコメント