僕たちは、幼馴染をやめた (Page 2)
「――ハル、春人?起きた?」
誰かに呼ばれていることに気づき、目をあけた。僕はどこかの病院にいた。左腕は点滴に繋がれていて、服まで変わっている。
荷物はどうしたんだっけ、と記憶を辿ろうとした直後に、視界の端に誰かが映った。
「良かった、少しは顔色も戻ってきたね」
そう言って微笑んでいたのは、白衣を着た誰か。
しかし、その顔には見覚えがあった。
「――たっくん?」
「すごい、よく気づいたね!そう、拓海。久しぶりだね、春人」
彼は飛びきりの笑顔を見せた。
昨日の夢に出てきた張本人、柳沢拓海。
僕よりいくつか年上で、僕が中学にあがる頃には疎遠になっていた。
「びっくりしたよ。夜勤明けで帰ろうと思ったら春人が倒れてるんだから」
そういう彼も、大人びた顔つきにこそなっているが、幼い頃の面影は十分に残っている。
僕はひどく懐かしい気持ちになって、同時に安堵した。
「たっくんは、医者になったの?」
「そうだよ、忘れた?春人と約束したんじゃないか」
一瞬、あっけにとられてしまった。そんな約束、しただろうか?
そういえば、今朝の夢で――。
「――あー、もういい。とにかく春人はしばらく入院。僕が主治医だからね。まあ、変なコトはしないから安心して」
少し不機嫌そうに、照れくさそうに拓海は頭をかく。
変なコトってなんだろう?と一瞬頭をまわすが、それよりも大変なことに気がついてしまった。
「ちょ、ちょっと待って。入院?!」
「そうだよ。急性胃腸炎。胃潰瘍の一歩手前ってところかな。多分1週間くらいで退院できると思うよ」
拓海は顎に手をやって答える。
その姿は、なんとなく自信に満ち溢れているように見えた。
「あ、でも、胃腸炎くらい全然、いつものことだし……。それより、バイトにも迷惑かけちゃうし、大学も……」
「またそうやって自分を虐めてるの?」
急に、拓海は険しい顔つきになった。僕はなんとなく身構えてしまう。自分を虐める?そんなつもりなんて、欠片も考えたことはなかった。
「ハルはいっつもそうだ。誰かのために優しくて、それでいて自分のことは二の次。そんなんだから、身体悪くするんじゃないか」
「そんなつもりは……なかったんだ、けど」
ふと、この頃の生活スタイルが頭を過ぎる。言われてみれば健康的な生活を送れていなかったことは確かだけれど、何も好き好んでそうしていたわけではない。
自分にも、そう、少しでも稼がなければ生活費は足りなくなるし、アルバイトとはいえ仕事なのだ。休まれては店だって困ってしまう。大学の講義も、そろそろ顔を出さないと留年になりかねない。
そうだ、僕にだって――。
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