守るのはあなたの手だけではなく。
ルイ・フェルディナンはピアニストとして、各地で演奏活動を行っていた。名前が売れ、危険な目に遭うことが増えたルイに、SPが付くことになる。男はダニー・ラファエロ。実直を絵に描いたような男だった。ある日の公演を終えてホテルに戻ると、急に土砂降りになり、雷まで鳴り始め、帰らないでとすがるルイにダニーは…
ルイ・フェルディナンは若くして名が売れたピアニストである。
瞳の色素が薄いルイは、普段は色付きのメガネをかけていた。
メガネのないルイの瞳は神秘的な色合いで、その中性的な風貌と物腰の柔らかさと、その容姿とは裏腹に激しく情熱的な演奏は、世の中のマダムといわず世界中の人を虜にした。
すると、瞬く間に名が売れたこととその容姿のために、ルイは妬み嫉みに晒されることになる。
コンサートの移動中、熱狂的なファンに襲われたことをきっかけにして、ボディーガードが付くことになった。
「ダニー・ラファエロと申します」
日に焼けた様な浅黒い肌、背が高く、スーツに包まれていてもわかるしっかりと筋肉の付いた厚い胸板に太い腕。
ルイとは真逆といっていいような、男らしい男だ。
自分とは何一つ重なるところがない…と思いながら、握手を求めて手を差し出した。
「よろしくお願いします、ラファエロさん」
「全身全霊、務めさせていただきます」
握手に応じた男の手は見た目通り無骨だったけれど、握り返してきた手の強さは、優しかった。
ルイの公演は毎回のように立ち見が出るほどの盛況ぶりで、ダニーは公演最終日に近づくほど注意をするように促していた。
基本的にルイは外に出ることを好まず、ホテルの部屋で過ごすことが多いことは、ダニーにとっては好都合だった。
楽譜を眺めながら、机を指先で叩いて練習するような仕草を見せ、ダニーはそれが始まると、部屋の扉の前で待機するようにしていた。
ある日、公演を終えてホテルに戻ってきた二人を追いかけてきたかのように土砂降りが始まった。
「雨…」
「そうですね」
すぐさま窓ガラスに雨水が流れていくのを眺めていると、暗闇だと思っていた外が強烈に発光し、そのあとすぐに地響きのような音が聞こえた。
「…っ!?」
ルイは驚いて飛び上がり、そしてしゃがみ込んだ。
「フェルディナン様…!」
ダニーが慌てて駆け寄る。
手を差しだそうとした途端に、再び雷鳴が轟いた。
「ひっ…!」
ルイは耳をふさいで、がたがたと震えている。
空が激しく光った直後に、轟音が地面を揺らす。
「ああ…!」
おびえたような悲鳴を上げるルイに、
「大丈夫ですよ、大丈夫」
そう声をかけながらダニーはそっとルイの肩に触れた。
「…あぁ…、ラファエロさん…。すいません…私、雷が…」
ルイがメガネ越しに不安げな眼差しでダニーを見上げると、また窓の外で稲光が走った。
「ひあっ…!」
ルイは短く悲鳴を上げて、ダニーにしがみついた。
ダニーは、ルイの大切なメガネを壊してしまわないように、
「失礼します」
と断ってから、そっと外してサイドテーブルの上に置いた。
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