幸せな時間は、たくさん。

・作

子供の頃、将来を誓い合った戸川将輔と中島秋博は、誓い合った通りに5年前に結婚した。何気ない日常を過ごす2人だが、秋博は発情期に入ると、将輔の洗濯物をベッドに集めて巣作りをするのが癖になっていた。今回のヒートも、将輔の服で巣作りをする秋博は、将輔の匂いでさらに発情してしまう…。

「オレ、アキちゃんと結婚したい!」

ぴかぴかのランドセルを背負った少年が、僕の手を引っ張りながらそう叫ぶ。

「オレぜったいアルファになるから、そしたら結婚して!」

僕は、少年の手を取り、

「うんっ、将くんがアルファだってわかったら、結婚しようね」

と言った。

彼は、ぱあっと顔を明るく輝かせて、

「約束だからな!」

と笑った。

夢はいつも、そこで終わる。

意識が現実に戻されると、目の前には大人になった将くんがいた。

「おはよう、アキちゃん」

僕の名前は、5年前に中島秋博から戸川秋博になった。

僕の家は、なぜか代々長男が必ずオメガで生まれてくるというジンクスがあり、僕も例外なく、入学前検診でオメガと診断された。

僕の後に検診を受けに行く将くんが、僕にプロポーズしてくれた様子が、さっきみた夢。

約束どおり、僕たちは結婚したのだ。

「朝ご飯、できてるよ」

「ありがとう、将くん」

月に一回のヒートがやってくると僕は何もできなくなるため、将くんは身の回りのことをぜんぶやってくれる。

昨日辺りから調子が悪く、今日はすっかりヒートに入ってしまった。

ベッドから起きあがるのも、とてもつらい。

「今日はどうしてもはずせない会議があるから出勤するね。帰ってきたら、たくさんしよう」

「うん…、あの、無理しないでね」

ぜんぜん頼りにならない僕なのに、将くんはそれでも僕を愛してくれる。

「行ってくるからね」

「行ってらっしゃい。ちゃんとお見送りできなくてごめんね」

「気にしないで」

将くんが仕事へ向かうのをベッドから見送りながら、準備しておいてくれた朝食をとる。

柔らかく煮込まれた具だくさんの煮込まれたスープをのろのろとすすっていると、半分ほど食べたところで体力が尽きた気がして、食事をやめた。

「薬…飲まなきゃ…」

僕は人よりヒートの状態が重く、それを抑えるために抑制剤を飲んでいる。

今は将くんと番になっているからそれほどではないけれど、それまではヒートが来る度に抑制剤が意味をなさないくらい、発情フェロモンを垂れ流しにして、見知らぬアルファに襲われたものだ。

幸い、妊娠するような事態に陥らなかったけれど、将くんと初めて結ばれた夜に、僕は抱かれることに慣れきった身体が悲しくて泣いた。

でも、もうそのフェロモンも将くんにしか効果がなくなった。

将くんいわく、フェロモンの効果はなくなっても、エロさは変わらないそうで…僕にはよくわからないけれど。

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