サンカヨウ~男娼ノ愛~ (Page 5)
「雪之丞!起きよ!」
半身を起こされ、背を叩かれ水を吐くと新鮮な空気が肺を満たし大きく咳き込んだ。
「雪之丞、雪之丞!俺がわかるか!」
「ひ、おり?」
そこには厳しい顔をし、普段より何倍も良い着物に身を包んだ日織が俺の身を支えていた。
「何故」
「なんで、なんで来なかったんだ!」
半ば叫ぶ様にぶつけていた。
胸の中の花は既に散り散りだった。痛かった。
「俺は、日織が、日織が好きだったから!身請けなんて、嫌で嫌で!助けて欲しくて…!でもお前は来てくれなくて…!」
ざあざあと、雨音がうるさかった。
「雪之丞」
彼の低い声が響き、抱き寄せられる。
「身請けの話を聞いた」
「ならなんで!」
くつくつと笑い出す日織を見上げる。
少しだけ刻まれた皺が、自分より生きた年月を物語る。
「なに、先方の身請けの額を上回る額を用意せねばならんかっただけさ」
「──は?」
「雪之丞、お前は俺が買った」
遊女だろうが男娼だろうが、身請けにはかなりの金額が要る。ましてや先方が居れば尚のこと。
「だって、日織いつも襤褸(ぼろ)を着て…」
「ああ、身元を明かせばつまらんでさァ」
カラカラと笑い、優しげに頭を撫でる。
「雪之丞は、嬉しくない?」
「……馬鹿…嬉しいに、決まってるだろ…」
ぼろぼろと、涙が零れ。
散り散りに散ったはずの胸のサンカヨウ白い白い、花を咲かせる。
貴方に染まる、白い花弁。
Fin.
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