結婚前夜に犯した最初で最後の過ち (Page 3)
「何のつもりだっ、」
「まだ、イかないでください」
服とシーツが擦れる衣擦れの音。ピリッと何かを破って取り出す音。
桜咲の声の代わりに、それらの物音が鼓膜を振動させた。
何の音だろうかと、僅かに動く思考回路を巡らしている時だった。
熱を維持する欲望に、冷たく湿る何かがピタリと密着した。
(妊娠しなくて着けるのか、コンドーム)
避妊は生殖行為をする大人のエチケット。
しかし今は何故か、秩序正しい桜咲の行動が寂しく感じた。
(鮮明に体温や締め付けを感じたい、そのまま中でぶちまけてやりたい)
湧き出す煩悩を自覚しながら、ここでやっと1つの現実に気付いた。
(もう、要らねえな…)
「桜咲っ、」
「どうかしましたか?」
「取ったらダメか…アイマスク」
最後まで続けられる確信を持って聞くと、寝具がギシリと短い音を立てた。
ベッドの音が止まる音に呼応したかのように、空間を支配していた官能もサッと消え失せたように感じた。
代わりに深い静寂が瞬く間に部屋に流れ出す。
それは、何か別の言葉を発するタイミングすらも奪った。
(何だよ、この妙な空気)
この空気に内心で軽く焦るも、その時間は意外とすぐに終わりを迎えた。
「取らないでください」
室内に漂う底無しの沈黙を破ったのは、桜咲の凛とした声だった…否定だけど。
「ですが、代わりに」
拒絶の言葉に気分を沈ませる前に、桜咲は一言付け加えた。
「コンドーム、取っていいですか?」
客と風俗嬢の会話かと突っ込みたくなったが、それより先にオレの唇がこう発した。
「取りたいなら取れよ」
「ありがとうございます」
ゴム特有の密着感が消え、窮屈さもなくなる。
しかし、解放感を味わう間もなく、今度は粘膜の熱さが包み込もうとする。
「はっ、っ、」
桜咲の呼吸音が微かに聞こえる。
それは短く、リズムも乱れていて、苦しそうなのは明確だった。
「…出せよ、声」
「…いい、ですか?」
「好きにしろよ」
「…ありがとう、ございます」
すると、寝具が大きく沈み、下腹部が少し重くなった。
「っ…はっ…ぁっ、」
「っ、」
「ぁっ、…はぁっ、」
低く、くぐもった声が混じり始め、肉壁に触れる部分も広まった。
初めて触れる男の内部は、ゆだるような熱と湿りを持っていて、オレの欲情を煽るには充分だった。
締め付けもあって、女の内側と大して変わらなかった。
挿入感を味わっていると、滑らかな肌が下生えを優しく押し潰した。
「はぁっ、ぁっ…!」
先端部が奥の硬い何かに当たるのを感じると、控えめながらも桜咲が甲高い声を上げた。
姫菜の喘ぎにはない低く掠れた声が、ドクンとオレの中心部を高鳴らせた。
「ぁっ、やっと、先輩と1つになれたっ」
僕、すごく幸せです。
そう付け加えた声は、微かに振るえていて、切なく寂しげだった。
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