結婚前夜に犯した最初で最後の過ち (Page 4)
言葉を紡いで間もなく、桜咲は自らの媚肉をオレの欲に擦り付けた。
グチュグチュとした卑わいな水音、パンパンと柔らかな肌が打ち付けられる音。
淫靡だろう、でも妖しく艶かしいだろう。
聴覚を刺激する音は、オレの半身で動く桜咲の秩序正しくない姿を想像させた。
「ぁっ、ぁっ…はっぁ、」
(声や音だけじゃ、もう我慢できないっ)
情欲の抑えが効かなくなったオレは、桜咲の願いを無視してアイマスクを外した。
「…!」
視界を強制的に解放した瞬間、オレは一瞬言葉を失った。
開けた先に見えたのは、下半身だけ裸のまま、騎乗位の体勢の桜咲。
彼の欲塊もまた、しっかり天井を見たまま、ピクピク痙攣してトロリと先走りを滴らせていた。
オレは今、男と、桜咲とセックスしていると改めて自覚した。
しかし、言葉をなくした理由は、桜咲とセックスしている事実に幻滅したからではない。
「…だから、取って欲しく、なかったんですよ」
視線が合うと、困ったような笑い混じりに桜咲は言う。
その瞳はまだ潤んでいて、溢れる雫がポタリポタリと、桜色に染まった頬を伝ってオレの服を濡らした。
涙を拭う間も惜しいのか、瞳を潤ませながらも桜咲は律動を再開させた。
「はっ、ぁっ…ぁぁっ、」
ラストスパートのように、抽挿の動きは大きく速く、力強さも増した。
激しくも正確な律動は、甘美で鮮烈な摩擦熱を与え、オレを絶頂目前まで一気に導いた。
「っ、」
その状態へ追い打ちをかけるように、桜咲の肉壁がオレにピタッと絡み付く。
どうやら、頂点が近いのはオレだけではないらしい。
「ぁっ、ぁっ…まだ、まだこうしてたいのにっ…終わっちゃう…」
涙混じりに呟きながらも、桜咲は全ての力を出し切る勢いでさらに激しく動いた。
「はっ…ゴメン、桜咲、もうっ」
「先輩…僕の願い、聞き入れなかったおわびに、最後に1つわがままを、言わせて、くださいっ」
「何、だよ」
「呼んで、ください…僕の、下の名前っ」
「稔っ…稔っ、」
何かを考える前に、オレは夢中で桜咲の名を口にした。
すると、オレの上で動く彼は、涙を浮かべながら幸せそうに微笑んだ。
「ありがとう、ございます…これでもう、僕は満足、です」
その言葉と共に、桜咲は自身の腹部へ精を放った。
ほどなくして、オレも彼の中で精を迸らせた。
「先輩の、熱くて、気持ちいいです」
まだ残るアルコールも手伝ってか、うっとりした表情でそう言った桜咲の姿を最後に、オレの瞼はゆっくりと視界を覆った。
*****
目が覚めると桜咲の姿はなく、置き手紙があった。
“僕の願いを聞いてくださり、ありがとうございます。
改めて結婚おめでとうございます。
お元気で、お幸せに。
桜咲”
心身にまだ残る行為の余韻、短い置き手紙。
それらは、オレの中に桜咲稔という存在を深く刻み付けた。
オレは姫菜と永遠の愛を誓えるだろうか?
この手でまた姫菜を抱けるだろうか?
桜咲稔という存在と共に、それらの不安を抱いたまま、オレも部屋を後にした。
Fin.
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