今夜の客は、前世の恋人でした
ゲイ向けのデリバリーヘルスで働くリョウは、ある夜に出会った客──アキヒロに不思議なときめきを覚えてしまう。心地良すぎるキスに蕩けつつも、これは仕事だからと必死に己を律するリョウ。しかし行為が進むにつれて、アキヒロの愛撫はさらにリョウを翻弄していき…それどころか彼は「俺たちさぁ…前世で付き合ってたじゃん」などと言い出して…
「こんばんは、リョウです」
オートロックが解除された自動ドアを抜け、無表情のままエレベーターへと乗り込む。アキヒロという名前で予約を受けた客の自宅は303号室、店の利用は今夜が初めて、そして21歳と年齢は若い。ゲイ向けデリバリーヘルスのキャストとして働くリョウは、最低限の情報だけを反芻しながら目的の部屋へと向かった。
「リョウくん、今日は宜しくお願いします」
「…宜しくお願いします」
インターホンを鳴らした直後、玄関ドアの向こうに現れたのは快活そうな青年だった。身長はリョウより首ひとつ高く、ぴったりとした黒のトップスに無地のハーフパンツ姿。そして筋肉質な逞しい体つき、特にがっしりした腕と太腿を目で追いながら、リョウは彼に悟られないように小さく喉を鳴らしていた。
「コースとオプションの選択…あと一応、店の規約の確認を再度お願いします」
「あ、はい」
「本番禁止以外は他と同じようなことなので、ざっとで大丈夫です」
リョウが働くヘルスは、本番行為──つまりはアナルセックスの禁止を掲げている。その分リーズナブルでショートタイムも可能、細かいオプションで選択肢の幅も広いのが売りだった。もちろん店には内緒で本番行為をするキャストもいたが、報酬だけでみれば割に合わないのが実情といったところ。元よりドライな接客スタイルのリョウはどの客とも寝ることはせず、それでも容姿の良さで指名ランキング上位を常にキープしていた。
「じゃぁ、この90分コース。オプションはディープキスと、スキンなしのフェラで」
「かしこまりました。店に電話を入れますので、それが終わったらプレイ開始になります」
90m、オプはDKとNSフェラです。手短に店への連絡を済ませたリョウは、深呼吸を一つしてアキヒロへと向き直った。彼は若くて魅力的な肉体を持っているからだろうか、リョウはいつもより少し緊張している。
「シャワー、お借りしますね」
「一緒に浴びてもいい?」
「どうぞ」
懐っこい笑顔と腰を抱く手のひらの感触に既視感を覚えながら、リョウはアキヒロと連れ立ってバスルームへと向かった。
*****
「ン、はぁ…」
重ねた唇と絡み合う舌の火照り、そして息継ぎのタイミング。アキヒロとのキスはこれまでにないほど心地よく、リョウは危うく仕事中であることを忘れそうになってしまった。相性が良い相手というのは確かにいるが、その中でもアキヒロは群を抜いている。
「気持ちいい?」
「…はい」
「だよね。リョウ、目がとろんとしてる」
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