フォレスト・イン・レイニーデイ (Page 2)
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それから僕は、フォレストへ通い詰めた。
目的はただひとつ、森野さんに会いにいくため。正直、コーヒーも別に好きじゃないし喫茶店に通うような性分でもなかった。ただ、彼を見て話したいという欲だけが僕を動かしていた。
学校の友達は、急に喫茶店へ通い始めた僕を不思議に思っているようだ。連れて行けという奴もいたけれど、森野さんを独り占めしたいという身勝手な理由でやんわり断る始末。
ちょうど、今日もそうやってなんとか言い訳をして友達を巻いてきたところだ。
「佐野くん、最近ほぼ毎日ここに来るね」
「はい!ダメですか…?」
「ダメってわけじゃないけど…」
そう言うと、森野さんは俺の横に置いたままのギターケースに目を向けた。
「佐野くんって、音楽やってるんだよね?」
「あ、はい。学校も音楽系です」
「…もしかして、たまに路上にも出てる?」
「え、出てます出てます!なんで分かるんですか?もしかして見てくれてたとか…」
嬉しさのあまり、カウンターから身を乗り出す俺。
森野さんは照れ臭そうに笑いながら答えてくれた。
「うん。初めて佐野くんがここに来てくれた時に勘づいてはいたんだけどね」
「本当ですか!嬉しいなぁ…まさか森野さんに知ってもらってたなんて」
「ふふ…ところで、最近は路上で歌わないの?」
言われてみれば、最近の放課後は主にここにいて路上ライブが出来ていない。情けないことに、本来自分が打ち込んでいたことを蔑ろにしていた事実を、森野さんからの指摘でやっと気づいたのだった。
返事が出来ないでいる僕を見て、森野さんは困ったように笑う。
「俺、実は佐野くんの路上ライブ結構見てたんだよ。真正面だと恥ずかしいから、いつも隠れながらだったけどね」
「え…」
「好きなんだよなぁ、君の歌声。俺、親からこの店継いでからずっとこの仕事しかやってないから、佐野くんみたいに夢追いかけてる人が眩しくて大好きなんだ」
森野さんは、カウンター越しに僕の手に自分の手を重ねてきた。
心臓が爆発するんじゃないかというくらいバクバク鳴る。手からそれが伝わってるのか、森野さんはまた柔らかく笑った。
「…どうしよう、嬉し過ぎます。明日から毎日でも路上で歌えそうです…」
「ふふ、それは無理し過ぎでしょ」
「でも、やっぱり森野さんとの繋がりもどうしても保ってたい…僕、わがままかな」
重ねられた森野さんの手を強く握る。彼の身体が驚いたように少し震えた。でも、すぐに彼は優しく微笑みながら言う。
「…いいよ。今夜、俺の家に来る?」
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