僕は人魚姫にはなれない (Page 3)
「笠井を前にすると自制が効かなくなりそうで怖い…いつか我慢できずに触れてしまいそうで…。ねえ、西野はこういうときどうしてる?…」
好きな人の好きな人の話。
しかもそれがこんな相談。
聞いていていい気分じゃないことは確かだし、むしろイライラする。
だからかな…。
「前川、そんなの簡単だよ」
このときの僕はどうかしていたんだ…。
「手頃な相手で欲を発散するんだよ」
耳元で悪魔が僕に囁いた。
「例えば…僕とかね」
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そのあとはとにかく早かった。
戸惑う前川をホテルに連れ込み、自分から股を開いた。
「僕を笠井だと思って好きにすればいい」
そう言って僕を抱かせた。
最初は戸惑いと、笠井に対する申し訳なさとで悩んでいた前川だったけど、ずいぶんその熱を放出することを我慢していたようで、口でゆっくり吸い上げると、すぐにペニスは熱く硬直した。
それをそのまま僕の後孔へ挿れた瞬間、すぐにイッてしまい、白い液は僕の中に放出された。
そのあと前川は恥ずかしそうに布団で顔を隠していた。
あのかっこいい王子様と思っていた前川のその姿があまりに可愛くて、もうこれでいい、これが幸せだ。
なんて…。
どうしてあのときは思えたのか…。
幾度も前川と体を重ねていくうちに、前川は次第に僕では反応しなくなっていった。
僕の顔を見ながらでは勃たなくなり、行為中でも僕の声を聞くとさっきまで元気だったペニスは途端に機能しなくなった。
前川との関係が終わると焦った僕は、とにかくこの関係を続けるために必死になった。
背を向けて顔が見えないようにしたし、必死で声を出さないように我慢した。
けれど、そんな僕の努力の結果、ついに前川は言った。
「笠井ッ」
僕ではないあいつの名前を。
そこから、前川は行為中僕のことを笠井と呼んで腰を振った。
笠井だと思えばいいなんて、自分で言ったくせに…。
僕はその名前を呼ばれるたびに切なさで胸が苦しめられる。
前川にとっての僕は、笠井に向けられない欲をただ満たすためだけの存在になってしまった。
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