こんなふうになって、ごめんなさい。 (Page 2)
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目が覚めた時犬飼の姿はなく、家主のいない部屋に1人きりだった。
サイドテーブルには、ペットボトルのミネラルウォーターが1本と、『カギは持っててください』と書かれたメモが置かれていた。
全て夢だったのでは…?
と思いたい気持ちは、腰と尻の痛みと、午後一に犬飼から来たメール1本で全て打ち砕かれた。
『家で待ってます』
簡素な文に添えられた添付ファイルを開くと、昨晩の2人の姿を隠し撮った画像だった。
夕方。仕事が終わると痛む腰を抱えながらも足早に犬飼の家を訪れた。
迎えた犬飼のほくそ笑む顔を見て、俺はようやく嵌められたのだと気がついたのだった。
「おかえりなさい、っていうのも変かな」
「…おい、あれはどういうつもりだよ?」
「…ぷっ、やだなぁ!いきなりそこからですか?とりあえず入ってください」
中に入ると、昨晩の痕跡はすでに片付けられており、広いワンルームの奥にあるベッドも、綺麗に整えられている。
「コーヒー淹れますね」
「長居はしないから、いいよ」
「…」
犬飼は無言で、コーヒーメーカーのスイッチを入れる。程なくして香ばしい香りが辺りを満たし、薄暗い室内に広がった。
何を言うべきなのか、わからずにただ待つことしかできず、差し出されたコーヒーの苦味を味わう他なかった。
「…腰は大丈夫そうですね?」
「…そこからかよ。……なんなんだよ、あの写真」
「…単刀直入いえば保険ですよ」
「脅す気かよ?」
「ははっ、『言うことを聞かなければ、留衣にこの画像もムービーも送りますよ?』って感じですか?まあ、その通りなんですけど」
「…っ!何が目的なんだ?金か?…俺何かお前の気に触ることでもしてたのか?!」
信頼していた人間に裏切られることほど、堪えることはない。自分ばかりが友人だと思っていたのに、知らないところで犬飼に不快な思いをさせていたのかも知れない。
「いや、まさか!広輝さん、そんなことないです」
「じゃあ!何が目的なんだよ!!」
「?決まってるじゃないですか、あなた自身ですよ」
「はぁ?…お前、なにいってんの?だって、お前は留衣の彼氏じゃないのかよ?」
「ふふっ、まあそれはそうですけど」
「じゃあ、そんなのおかしいじゃねぇか?!」
「…もうそういうの考えるのは、いいんです。とにかくあなたは、俺に脅されて抱かれるか、それともこの写真を留衣に見せるか。どちらか選んでもらえます?」
「そ、そんな!あり得ないだろ?俺もうおじさんだぞ?お前みたいないい男がそんなっ、おかしいだろ?!」
「じゃあ、留衣にコレ送って、『お兄さんとできちゃったので、別れてくれ』ってメールします?」
「……っ!!そ、そんなっ」
「おとなしく俺に抱かれますか?」
そう脅されてしまえば、俺にはもう選ぶ術はない。可愛い妹を傷つけるなんて、絶対にしたくない。軽蔑されるなんて耐えられない。
その時は、もうそれ以外考えられなかった。
「…どうすれば、いいんだよ」
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