最低最悪の不倫
ごく普通の青年、立夏は初春に結婚した姉の夫に昔から恋情を抱いていた。これは許されざる、禁忌の恋。けして知られてはならないと胸の内に秘めていた思いは張りつめていき、ついにはこらえきれなくなってしまい…
まさか、こんなことになるなんて思ってなかった。
これは、許されざる、禁忌の恋。ずっと、永遠に胸にしまっておくはずだった。
なのに、どうして。
ねぇ、どうして、あなたは俺を受け入れてしまったのですか?
*****
快晴の空、ウエディングベルが鳴り響くチャペル。止まない祝福の声。幸せで満たされていた。花婿と花嫁の幸せそうな笑顔が眩しい。
そんな、ふわふわとした煌びやかな空間で俺、相馬立夏は笑顔の裏に浮かないドロドロとした気持ちを隠して参列していた。
「立夏!」
花嫁、姉がこちらに駆け寄ってくる。
「姉さん、結婚おめでとう」
無理に笑顔を作ってそれだけ告げる。
「ありがとう、忙しいのに来てくれて本当に嬉しい」
五つ年上の姉、春香は何も知らずに満面の笑みを浮かべて俺に礼を述べる。そんな姉に胸が苦しくなる。
「立夏くん、改めてこれからよろしく」
笑顔で告げるのは花婿で姉の大学時代からの恋人、新谷和彦さん。年は姉の二つ上。サークルの先輩だった。
「あ、はい…こちらこそ、姉をよろしくお願いします」
緊張して、声が詰まりそれだけしか言えなかった。
そう、俺はこの人、和彦さんが好きだ。
初対面の時なんて、俺はまだ中学生で、ガキでやんちゃで世の中を舐めきっていたにも関わらず、この人は一人の人間として俺に接してくれて、親も見て見ぬふりをしていた俺の悪行を真剣に叱ってくれた。
そして、いいことをしたときには褒めてくれた。おかげで更生して、学校も真面目に行くようになった。兄が出来たようで嬉しかったのに、その気持ちはいつしか、恋情に変化していって。
姉のものだと言い聞かせ、今日まで来た。辛くて、大学は地元を離れて見ないように、忘れるようにと心に蓋をした。それなりに普通の恋愛をしようともした。女性との行為も経験した。それでも、あの切なく甘い感情は忘れることが出来なかった。
そして、月日は流れ、なんの因果か俺はUターン就職なるものをする羽目になってしまって、この春この地へ戻ってくることになってしまった。
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