幸も不幸も君の手で
何かとツイてない、不幸体質のコウタは今日も自分の運のなさにうんざりしていた。そんなコウタの前に運がよいと自称するイケメン、アタルが現れた。アタルからしたら、コウタとの出会いも自分の運のよさのおかげだと言うのだがその理由は…
不幸体質なんて、そんな大げさなものでもないけど、僕はそういう星の下に生まれたのだと、ずっと、そう感じていた。
「100枚ください…」
駅前の、立ち寄ったこともない宝くじ売り場で諭吉を3枚出しながらそう言うと、初老の女性店員は物珍しそうな顔で100枚のスクラッチカードを手渡してきた。そのまま家に帰ろうかと思ったけど、部屋に100枚のハズレ券が散乱する光景が脳裏に浮かんだから、この場で片付けることに決めた。
ゆうに30分はたった気がする。硬貨を持つ指先はジィィンとして感覚が微妙になくなってきているし、予想通りというべきか、すでに削り終えた99枚はすべてハズレだった。わかっていたことだけど、改めて自分の“もってなさ具合”にウンザリさせられる。
どうせハズレだろうとわかっているラスト1枚を、それでも何となく願かけのつもりで、親指と人差し指で摘んで、顔の位置まで上げた、その時だった。ブワッと突然に吹いたつむじ風に煽られて、スクラッチカードが僕の手から離れていった。
ああほらやっぱり。そういう星の下に生まれたから…
どうせハズレだろうラスト1枚を、それでもそのまま放置できるはずもなく、急いで追いかけた僕の視線の先。ピラピラと舞っていたスクラッチカードをパシッと掴んだ手があった。
「これ、おにーさんの?」
そう聞いてきた彼は、近くにいるだけで運気があがりそうな、キラキラとしたキレイな金色の髪をして、背が高くスマートな、いわゆる今どきのイケメンだった。
「あ…えっと…」
そのイケメンのまぶしさにあてられて、うまく言葉を発せないでいると、彼はモデルみたいに堂々とした歩き方で目の前までやって来た。自然な動きで僕の手首をグッと掴んで引っ張ると、パチン、握手するみたいにしてスクラッチカードを返してきた。
イケメンに持たれていた時は神々しくすら見えたのに、僕の手元に戻ってきたそのスクラッチカードは途端に効果をなくしたみたいに惨めだった。
「え?もしかしてソレも全部?おにーさん?」
僕の立つ傍らに、宝くじ売り場が申し訳程度に設置している小さな台の上、99枚のハズレ券が山盛りになっている。今僕の手にある券も、すぐにこのハズレの山に仲間入りするのだろう。そう思うとどうにももったいない気分になって、ズイとイケメンに向かってスクラッチカードを差し出した。
「あの、これ。もらってくれませんか」
「は?え?何で?」
「どうせハズレだろうけど…僕が削るより貴方が削ったほうが何だか少しは当たる確率があがる気がして…」
「あー…そこにあるやつは…」
「全部ハズレです。99枚削って、100円すら当たってないです」
そう口にしてみたら、あまりの惨めさに胸がグシャリと鳴いた。
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