幸も不幸も君の手で (Page 3)
「僕、昔からどうもツイてなくて。なにをしてもうまくいかないし、大事な日に限って絶対トラブルが起きたりして…今日も、本当は、気になってた女性とデートの予定があって。それなのに、電車が遅延してて、連絡しようとしたらスマホ落としちゃって、何でか電源入らなくなって…」
こうして口にしてみると、自分のツイてなさ加減を嫌でも知らしめられる。イケメンも「嘘だろ?」と言いたげな顔でこちらを見ていた。
「それでもタクシーで急いで待ち合わせ場所に向かったんだけど、30分以上遅刻で、そのコはもういなくて。それでも2時間くらい待ってたけどやっぱり会えなくて。それで、帰り道にたまたま宝くじ売り場が目に入ったんで、デートで使おうと思ってた3万円であのスクラッチを…」
「あのさ…いろいろツッコミたい部分あるんだけど、まずおにーさんさ…」
と、そこで一旦イケメンは言葉を止めると、グイッとジョッキをあおってからマジマジとこちらを見てきた。
「おにーさんってのもあれだね、名前教えて」
言って、イケメンはニコリと笑う。これ、女の子だったらイチコロだろうなって思うような笑顔だ。
僕みたいな残念な星の下に生まれたような人間にすら、そんな笑顔を見せてくれるこの人は、相当モテるんだろうな、と、皮肉めいた感情が芽生えてきた。誤魔化すようにチューハイをのんでから、口を開く。
「コウタ、です。えっと…」
「コウタくんね、ヨロシク。俺はアタル」
言って、イケメン…アタルくんは、スイッと右手を差し出してくるので、申し訳程度にそれを握り返した。
「それで、コウタくん。スマホはまだ電源入んないの」
そう言われて、バッグの中から取り出したスマホの電源ボタンを押してみるけど、やっぱり画面は真っ暗だった。便利な機器なのに、使えないとなると全く無意味な存在で、バッグの中で無駄にスペースを取っているだけだ。
フルフルと僕が首を振れば、アタルくんはそっか、と頷いて、自分のスマホを取り出してきた。
「コウタくん、その彼女のことはもうあきらめたの?」
「まぁ…。遅刻したのもスマホの電源入らないのも僕の責任なので。でも、せめて謝りたいな…とは、思うかな」
「電話番号とか知ってるなら、俺のスマホ貸すけど…って、覚えてねーか。電話番号なんて。つながってるSNSとかある?俺のでログインして連絡してもいいよ」
当たり前みたいにサラリと言われる言葉に、胸が苦しくなった。キラキラとした彼の方を見るのがしんどくて、自分の膝を見ながら、言う。
「や…その、婚活アプリで…連絡とってた相手だから、アプリ内でしかやり取りしてないし…」
「あー…そういうこと」
ほら、あきれたみたいな口調。
アタルくんみたいな、人生成功してそうな、そういう星の下に生まれた人間には、多分僕みたいな残念な星の下に生まれた人間の気持ちは理解できないだろう。
「出会いなんてないし…ね。一応サラリーマンとして働いてるけど、職場の女性なんて僕の残念なとこいっぱい見てるから、必要最低限の会話しかしてないし。ほんと、そうなんだ。僕は。学生の頃なんて登校中に鳥にフンかけられることが何度もあったし、席替えのくじ引きでは教卓の目の前になったり、大事な用があるときは電車が遅れたり、とりあえずずっと、ずっとツイてないんだよ。付き合った人もいたけど、僕が浮気相手だったとか、二股かけられてたりとか、そういうのばっかで」
滑るみたいに口がペラペラと動く。若干頭がボーッとしてるのは、あまり強くもないくせに、いつもより早いペースで酒を飲んだせいだろう。アタルくんが何か言ってくれているけど、ふわふわとした頭じゃ、いまいち理解できない。
ただ、腕をとって引っ張り上げられたのはわかった。
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