幸も不幸も君の手で (Page 4)
「コウタくん、酒弱いなら言ってよ。立てる?」
「あのさ、コウタくん、連れて行きたいとこあるんだけど、いい?」
それは、確かに言葉なんだけど、まるで知らない言語みたいに、音としてしかとらえられなくて、ただ僕は、首を縦に振ることしかできなかった。
アタルくんに肩を抱かれて、彼に身を任せながら歩いていた。初対面の人の前で酔い潰れて介抱されるなんて、自分のダメさ加減を呪いたくなる。アタルくんだっていい迷惑に違いない。いっそもう、このまま道の端っこにでも放置して帰ってくれてもいいのに、アタルくんは僕みたいなのをちゃんと連れて歩いてくれていた。
飛び飛びの意識で、どこかに着いたのはわかった。
「コウタくん、靴、脱がすよ」
そう言って、僕の靴を脱がしたアタルくんは、そのままヒョイと僕を担ぎ上げてきた。突然の浮遊感に少し驚いたけれど、フワフワとして心地いい。
自宅のベッドの、数倍も寝心地のよさそうなマットの上に体が置かれる。パリッとしたシーツに頬をくっつけて、スゥと息を吸えば、清潔感のある香りがした。
もう、このまま寝てしまおう。
そう、思った時、すぐそばで声がした。
「コウタくん、ここどこかわかる?」
別にどこだっていいや。
夢の世界に入ろうとしたら、髪をサワサワと撫でられて、直後、口に柔らかいナニかが触れた。
「ん!?」
思わず目を開けたら、口内に侵入してきた舌と共に、ツーッと冷たい水が喉を流れて行った。
一気に酔いがさめていくのがわかった。何がどうなっているのかはわからなくとも、たった今、アタルくんにキスをされていることだけは認識できた。
チュル、と音をたてて、アタルくんは唇を離した。厚めの彼の唇は水で濡れて、ぷるると誘うみたいに光っている。
「酔い、さめた?」
「は….あの、えっと…」
酔いをさますためのキスなのか…と考え直してみて、ようやっと今自分がいる場所を確認しようと頭が働きだした。
静かで広い室内、洗いたてとおぼしき寝具に、デカイダブルベッド。枕元には照明や空調の調節盤があって、その隣には透明なプラスチックの箱に避妊具が数個と透明の液体が入ったミニボトル。
この風景は、これまでの人生で2、3度しか入ったことはないけれど、見覚えがあった。
「ここ、ラブ…ホテル?」
「正解!」
明るい声でアタルくんが言った。
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