あまい、あまい
ツンデレな先輩、レンと付き合うことになったユウタ。周りに気づかれないようにうまく関係を続けてきた二人だったが、ある日その関係が友人にばれてしまう。なんとかごまかしたユウタだったが、そんなユウタの様子を聞いたレンは、ユウタとの別れを考えるように。別れを切り出されたユウタは、今までに我慢していた感情をすべてぶつけるかのように、レンを激しく抱いて…。
「だから、もう別れようって」
バイト先の前のカフェ。
レンさんの声が、静かに響いた。
友達の紹介で知り合って、いつの間にか恋人になって、数か月。
まだクリスマスだって、レンさんの誕生日だって祝っていないのに、突然別れを告げられた。
「…いや、待ってくださいよ。そんないきなり」
「いきなりじゃない。ずっと考えてたことだから」
いつもより少し低いレンさんの声。
俺に怒っているのは、ここ数日のやり取りから、なんとなくわかっていたけれど。
俺には怒られるようなことをしたおぼえが、まるでない。
「なにがあったんですか、なんか嫌なことしたなら謝りますよ」
「…べつに。お前と付き合っても無駄だなって、わかっただけ」
「は?それマジで言ってんすか」
マジだけど、なに?って相変わらず強気な返答。
どうやらレンさんは、態度を変えるつもりはないようだ。
「…理由教えてくんなきゃ、俺は納得できませんから」
「理由って…わかんないわけ」
眉毛がキッとつり上がる。その顔を見て、ああ、俺がなにかしたんだなと察した。
だけど、俺には本当にそんなことをしたおぼえが全くないのだ。
「わかんないから聞いてるんじゃん。そもそも、俺がそんなに賢いタイプじゃないことくらい、よくわかってるでしょ」
「わかってるけど、そこまで鈍感だとさすがに俺もあきれるわ」
スッと、俺の前に差し出されたスマホ。
その画面には、先日あった俺のバイト先の飲み会での写真。
「…え、この写真、なんでレンさんが持ってるんすか」
「ヒロトからもらった。ユウタが、この端に写ってる女の子のこと好きなんだって教えてもらったよ」
「…は?」
俺たちの共通の友人、ヒロトによって落とされた、巨大な爆弾。
なぜこんなことになってしまったかというと、話は2週間前までさかのぼる。
*****
「なぁ、俺この間見ちゃったんだけど。お前とレンさんが手つないでるところ」
ヒロトとの電話中、突然そう言われた。
外で手をつなぐことなんて、ほとんどないのに。
どこで見られたのだろう、と思い返してみたけれど、そんなことをしてみたところで、時すでに遅しで。
「レンさんと、そういう関係なわけ?付き合ってるとか?」
ヒロトはいいやつだけど、そういう関係に理解があるとは思えなかった。
口だって固いほうじゃないし、あまり踏み込んだ話をするような相手じゃないことは俺だってよくわかっている。
「そんなんじゃねーし、第一…男に興味なんかねーよ。気持ち悪いだけだろ」
そう、ごまかすことが最善だと思った。
「じゃあ何、女の子には興味あるわけ?そういうこと?バイト先とか?」
「…あーまぁ…そんなとこ」
その後もヒロトからの質問責めは続いて、俺はテキトーに好きな人がいる振りをして、その場をやり過ごした。
もちろん、それはレンさんとの関係を守るためにやったことだったのだが。
俺は、ヒロトの口の軽さを、少々見くびっていたのかもしれない。
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