FLOWER (Page 2)

*****

 庭でサンドウィッチを頬張りながら、梓が満面の笑顔を浮かべた。

「んーっまい!」

「よかった」

「うますぎる!」

 日差しが温かく、花に囲まれるこの庭は梓のために作ったものだった。

 梓が働いていた花屋の店員たちに手伝ってもらいながら作ったもので、梓の癒しの場所になっている。

 花を見ることはできないけれど、その香りや風に揺らぐ音を楽しむ梓は本当に楽しそう。

 朝食や昼食はときどき今日のように庭で食べ、温かい日は一日を外で過ごすこともある。

 でも俺は花が好きではなかった。

 梓の視力を奪ったのも、また花が関わっていたからだ。

「んっ、あ、誠也」

「どうしたの?」

「ここの花で花束作ってオーナーの誕生日プレゼントにしたいんだけど」

「うん、いいよ」

「じゃあさ…」

「言ってくれれば俺が作るからね」

「…いや、それなんだけど」

「ダメだよ」

 強く言うと梓はくしゃりと笑った。

 泣きそうな悲しそうな顔。

 花の香りで種類を判別できるくらい、梓は花が好きだ。

 だけど、梓の目を奪ったのもまた花が原因。

 だから許せない。

「誠也、俺がこうなったのは『花』のせいじゃない」

「原因は花だ」

「そうかもだけど…。でもさ、俺はこの子たちを…」

 テーブルに飾られる一凛の花に触れようとする梓の手をつかんだ。

「ダメだ!」

 絶対に触らせない。

 梓の手首を握り、花から距離を取らせる。

 情けないけど、こればっかりは余裕がない。

 だって梓は、こんなもののせいで…。

「お前が用意した花なら絶対に安心だろ…? もう二年もたってるし、ここで守られてるし、前みたいなことはならな──」

「なったらどうすんだよ!」

 声を荒げ、梓の手を引っ張った。

*****

 リビングのソファーの上、梓はうつぶせになりながら身体を震わせた。

 しなやかに跳ねる綺麗な背中にキスを落としてうなじに吸い付く。

 背中に赤い花を咲かせながら、梓の中を深く突いた。

「あぅ…あっ、あ、あぁ!」

 何度目かの絶頂を迎え、梓は呼吸を整えながらソファーに倒れた。

 肩で大きく呼吸をする梓の身体を表に返す。

 閉じていたまぶたがあがり、光のない瞳で俺を見上げた。

「はぁ、ん…はぁはぁ」

 視力を失っても力強い眼差しに俺の肩から力が抜けた。

「満足、した、かよ…」

「…梓、俺──」

「わかってるよ。花に触んないでほしい理由はわかってる。お前が同じことされたら、俺もきっと同じように触らせない」

 梓はまぶたをおろして、顔のそばについていた俺の手に触れながら頬を寄せる。

 一方的な俺の気持ちも行為も梓は怒らずに受け入れてくれる。

 その優しさが本当に怖い。

 梓の肩に額をぶつけ、梓の指に自分の指を絡める。

 ぎゅっとつないだ手を握り返されて、俺の目に熱いものがこみ上げた。

「梓、好き。好き…なんだ。おまえをうしないたく、ない」

「俺も好きだよ。視力をなくしても、変わらず愛してくれてありがとな」

「そんなの当然だろ」

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