五線外の声
コメント:音大生の奏(かなで)と律。奏はピアノ科、律は声楽科。大の仲良しで幼馴染。中学校で引っ越した奏だったが、大学入学と同時に昔住んでいた土地に戻ってきた。そして大学で律と再会し、互いの気持ちを認識し付き合うことに。そこから、今までの時間を取り戻すかのように急速にさらに仲が深まり…。
大学構内に様々な楽器の音が小さく飛び交う放課後。
傾いた陽の光に当たった校舎が、地面に大きな影を落とした。
すべての講義が終わり、あとはオーケストラの練習か自主練習、サークルの集まりに参加する生徒達や教師達のみが残り日中のにぎわいは、なりをひそめている。
入学式が終わって数週間、若葉の中に僅かに残った桜が風にさらわれ季節は進んでいく。
同時に大学入学で再会した奏と律の仲も、急速に進んでいった。
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数本の蛍光灯が付けられた天井、太陽の光が僅かにしか入らず薄暗い廊下に並んだ自主練習室。
その廊下の一番奥からかすかに聞こえるイタリア歌曲とピアノの音。
二人は、その部屋で共に練習をしていた。
「この曲、律の声に合ってていいね」
「あぁ、すごく歌いやすいよ。それに、奏の伴奏が上手くて歌ってて心地いい」
「へへっ、律にそう言ってもらえると嬉しいなぁ」
「本当のことだからな。これからも、よろしく頼むよ」
奏は、律の賛辞にほのかに頬を染めてはにかみ笑む。
昔から二人とも音楽を奏でることが好きだった。
奏のピアノに合わせて律が歌う。
幼い頃から続けていたことだ。
一度は離れ離れになってしまったが、二人はまた繋がれると信じて音楽を続けてきた。
その想いが成果を結び、再び二人の音が、心が重なり合っている。
ひとしきり笑いあうと奏の指先が操る鍵盤と、それに続く律の澄んだ声がまた室内に広がり始める。
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