閃光の誘惑 (Page 3)
今自分にしがみついているのは男で、同期で、おまけにイナセにとっては嫌いな存在だ。
それはわかっているのに、シャンプーだろうか洗剤だろうか、ミズタニからは花のようないい香りがしていて、視覚を奪われた今、耳と鼻から伝わる情報がどうにもイナセを変な気分にさせてくる。
ふと、イナセの脳裏に随分と昔に観た映画のワンシーンが浮かんできた。
雷におびえるヒロインにキスをする主人公。
視界が真っ暗なせいで、その映画の情景がやけにクリアによみがえってきた。それはまるで、自分がその映画の主人公になったような、そんな感覚で…
ピカッ…と再び闇の中で白い光が弾けた瞬間、ミズタニが悲鳴をあげるよりも早く、イナセは彼に口づけていた。
ド…ゴロロォッ!!
と、窓を揺らすほどの雷鳴がやってきたが、ミズタニの悲鳴はあがらなかった。ただ、ビクビクと体を震わせているので、イナセはさらに深いキスでミズタニを責める。
「ふ…っぅ…」
口内を舌で刺激すると、ミズタニから吐息混じりの声が漏れた。
それはやはり女性のような甘く高い声ではなく、呻きにも似たよがり声ではあったが、なぜかそれすらもイナセはひどく情欲的に感じた。
ただ本能が求めるままにキスをしながら、イナセはミズタニを床へと押し倒す。と、そのタイミングを見計らったようにパッと照明がついた。
明るさを取り戻した室内に、イナセはハッと我に返って唇を離した。
見下ろすさき、自分が組み敷いている相手、ミズタニが真っ赤な顔で瞳を潤ませながらイナセを見つめていた。
「あ…」
とっさにマズイ、とイナセは思った。
それは、社内で同期の優秀な男にキスをして押し倒してしまったというコトの重大さへの焦りではなくて、そんな男に、視界が良好となったこの状況でもドクンと性的な興奮を覚えてしまっていることにあった。
ズクズクと下半身に熱が集まっているのがわかって、どうしたものかとイナセはミズタニを組み敷いたまま、頭を悩ませていた。
そんなときに、また閃光が走る。
「ひっ…」
ミズタニは小さく悲鳴をあげると、イナセの腕を掴んでグイッと自分のほうへと引き寄せてきた。その力に任せるように、イナセはボスッとミズタニの体の上に上体を乗っけた。
ゴロゴロ…と鳴る雷は、さっきよりも少し離れているようだった。それでもミズタニはブルッと震えている。
「な…ミズタニ。お前、雷が怖いの?」
わかりきった質問をすれば、イナセの胸に顔を埋めたままミズタニはコクと頷いた。
「あー…えっと、帰れそう、か?」
「今は無理だ。…雷がおさまるまでは」
なんとかいつもの自分を取り戻そうとしているようだが、ミズタニの声は震えていた。
閃光の誘惑
話の展開が不自然ですけど、コメディ?ドタバタBLなのか
もう少し二人の関係、エピソードが欲しかったかも、エロよりも
コロコロ さん 2021年4月4日