泡沫(うたかた)のたわむれ (Page 2)
幼い頃から祖父に何度も言われていたけど、人魚の存在なんて正直信じていなかった。
ただ、怒られるから海には行かなかっただけだ。
その海で、僕は人魚…いや、人魚というより半魚人のほうがしっくりくる。
だってそうだろう。人魚と聞けば、大半の人が貝殻で胸元を覆った美しい女性をイメージするし、僕だってそうだ。
ところが今、ここにいるその人魚もどきは筋肉質の隆々とした体躯で、美しい顔立ちはしているものの明らかに男だった。
貝殻ビキニなんてあるはずもなく、分厚い胸板がしっかりと存在を主張しているのだ。
ただ、これが祖父の言う人魚なら、僕はコイツに食われてしまうのだろうか…
「子供の頃、そこの村に祖父と住んでた。祖父が亡くなって久しぶりに村に来て…人魚の話を思い出したから…」
「人魚の話?」
青い瞳が興味深そうに僕を見つめてくる。
その瞳を見つめ返す勇気はなくて、僕は足元の砂に視線を落とした。
「人魚は…人を食べると…」
ザァザァという波音が、やけに恐怖心をあおってきて、けれど逃げ出すこともできなくて、心臓はバクバクと悲鳴をあげていた。
「ふ…ふ、ははははっ」
しばらくの沈黙のあと、こらえきれなくなったかのように、人魚は笑い出した。
「どうりで滅多と人に会えないと思った。そんな噂があったとは…!久々に笑わせてもらったよ。俺の名はマリク。君は?」
ふふふ、とおさまらない笑いをこぼしながら、マリクという名の人魚が聞いてくる。
「…僕は、ノアです」
「ノア!いい名だな!それでノア。君は今、俺に食われると思ってるのか?」
「そ…れは、わからない、けど…食べられるのは嫌だな」
僕がそう応えれば、マリクはうん、うんと大きくうなずいた。
「おそらくだが、君を海に近づけないようにおじいさんはそう言ったんだろう」
マリクの言葉にパッと僕は顔をあげた。
「じゃ、じゃぁ、僕を食べることはない?」
マリクは、僕の全身をなめるように見て、ゴクッと喉を鳴らした。
「そうだな…ただ、ノアのカラダは欲しい」
「えっ…」
どういうこと?と聞く前に、巻いていた尾ビレを伸ばして、マリクは僕に覆い被さってきた。
濡れたマリクの素肌が衣服をジメと湿らせてきて、ひどく気持ち悪かった。
「や…やだ、食べないでっ…!」
そう叫んだと同時に、下半身にビチャリと何かが乗った。そして、直にナニかが触れてくる感覚。
「…え!ええ!?」
おそるおそる、首だけを持ち上げて自分の下半身を見た僕は、そこにあった光景に目を疑った。
身につけていたズボンと下着がまるで水のように溶けて、僕の下半身は空気に晒されていた。
「な…なんで?」
そう呟く僕の声に、マリクの尾ビレがピチピチと揺れて反応する。
「俺のヒレで触ったら、溶けるよ」
「ちょ…」
穏やかではないことを告げられて、腰が引けるが、体は動かない。
今、僕の上にはマリクがズシリと乗っかっているのだ。
僕の胸の上にはマリクの筋肉質な胸板が、脚の上にはヌルヌルとした尾ビレが…。
「あれ?」
そこで気づいた。
ズボンも下着も見事に溶かされているのに、僕の下半身は溶けていないことに。
マリクはニヤリと笑い、尾ビレを下半身に塗りつけるように動かしてきた。
「は…うあっ…」
ヌメヌメとして生暖かく、そして、うろこだろうか、ザラザラとした感触に、思わず変な声が出る。
その反応に満足そうに、マリクはさらに僕の上で前後に揺れだした。
「や…あっ…あ…」
ヤバイと思ったときにはもう遅く、僕の自身は完全に勃起していた。
尾ビレが擦られるたびに、ヌチヌチといやらしい音が夜の海に響く。
気持ち悪い、いや、気持ちいい。
今までに知らないその感触に、理性の糸が弱々しくほつれていく気がした。
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