天使は理性を崩したい!
一樹には長年の片思い相手がいる。それは天使のように可愛い『葵』という男のこと。一樹は葵からカギを手渡されるほどにまで長年、友情を築き上げてきた。恋愛感情を抱いていながらも、親友のポジションでいるために。でもそれは葵が酔いつぶれたことで崩れて──。
この世界には天使がいる。
天使のように可愛い、葵(あおい)という男のことだ。
その天使の家で、今夜は飲み会という名のお泊り会!
「んー、今日もバイト終わったぁ」
葵は俺の隣で両腕を上に伸ばす。
それだけで可愛い。
葵はマジ天使。
「お疲れ、葵」
「ん。つーか俺のバイト先まで来なくてもいいんだぞ? 俺ん家のカギだって渡してんだから」
「気にしないで。近くに用事があっただけだから」
「そうかあ? ならいいけどさー。つーか毎度のごとく、用事ってなんだよ」
「……。本屋さんだよ。取り寄せの日がバラバラでさ」
「お前、本当に好きだなぁ」
葵と並んで歩きながら、密かに冷や汗を流す。
むろん、本屋なんかに用はない。
バイト中の葵を眺めることができる喫茶店で、買った本をカモフラにして葵を見ているだけだ。
こんな可愛い葵を夜中に一人で歩かせるなんてできない。
だって葵は可愛いんだから!
「ふわぁ…ねっむ…」
「くそかわっ…!」
「…はあ? 急になんだよ」
「いや! 猫がさっき通って可愛いなぁって思って!」
「…ふーん」
危なかったぁ…。
葵のことなんて言えない。
中学のときにヒトメボレをして、友人にまで結び付けた。
それも親友というポジションを獲得して!
なのにいまさら、『そういう意味で好きです』なんて言えるわけない。
葵には何人か恋人いたし、大学でもバイト先でもモテてるし。
葵は一般男性より身長が低く小柄で、可愛らしく、整った顔立ち。
でも力もちだったり、男らしいギャップに惚れる女性は多い。
「あ、ビール買ってっていい?」
「俺も一応、買ってきたけど…」
「トイレにも行きたいんだって。一樹(かずき)は外で待ってろ」
そう言って葵はコンビニへと消えていく。
ついていったらうっとうしがられる。
「…はぁ。葵ぃ」
葵はマジ天使。
もし抱いたらどんな顔をすんのかな。
なんて、一生ないよ。
………
一生ない、よね?
葵の住むアパートに来てから、約二時間。
顔を真っ赤に、お酒につぶれた葵は、俺の膝に乗って頬ずりをしてくる。
「かーずーきぃ」
「…な、なんでしょう?」
「お前は本当に可愛いなぁ…」
可愛いのは葵のほうです!
酔ってるからって絶対に言えない。
本人が忘れるとしても、絶対に言えない!
「今日さぁ、ミスの子に告られたんだよねぇ」
ミスの子に、講義後に呼び出されて一緒に出ていくの見ていた。
…結果は怖くて聞いてないけど。
だってミスになるくらいだから、普通に美人だし。
絶対に葵のほうが可愛いけど!
「ちょーかわいかった。返事どーしよーかなぁ」
ぐでぐでになった葵は、俺の腕をツンツンとつつく。
悩むなんて珍しい。
いつもは付き合うのも断るのもその場なのに。
葵は俺の太ももにまたがり、股間の近くに膝が近づいて少し後ろに下がる。
「なぁ、かずきぃ…」
「…お、俺には答えられないな」
「一樹が決めてよー。俺はぁ、一樹がやめろって言うならやめるよぉ?」
葵は俺の首筋に顔をうずめて、はぁと息を吐く。
吐息が首筋にかかり、ズクンッと下半身がうずく。
そして天秤が脳内に現れた。
理性を保つか、本能のままに襲ってしまうか…。
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