×××しないと出られない部屋

・作

冴えない普通の会社員、高橋は同じ会社に勤める木村のことを毛嫌いしていた。木村は営業部のエース、社内きっての色男。しかし高橋にとっては、いつも定時ギリギリに仕事を押し付けてくる嫌なやつだった。しかし、ひょんなことから、二人は“セックスしないと出られない部屋”に閉じ込められることになってしまい…

「セックスしないと出られない部屋…?!」
「本気で言ってんのかよ…それ…」

俺の名前は、高橋和也。
そして、俺の隣にいるのは木村礼。
俺の、大嫌いな男だ。

どうしてこんな男とこんな部屋に入ることになってしまったのか。
それには、深い深い、理由があるのだった。

*****

木村と俺は、同じ会社に勤めている。

とはいえ、俺は経理部で、あっちは営業部。
毎日話すような間柄ではないし、どちらかというと俺にとって木村は関わりたくないタイプの人間。

いつも女性社員を後ろに連れて歩いていて、残業だってほとんどすることなく定時退勤。
残業ばかりの俺とは大違い。華やかな営業部のエース様は、残業なんかしなくたっていいってわけで。

「ごめん、これ!提出遅くなっちゃった、お願いできる?」
「…遅くなるどころか、期日過ぎてますけど…」

経理部の俺に、毎回毎回請求書や領収書の山を持ってくるのだって、エース様には許されてしまう。

「あの、毎回過ぎてますけど…こっちも困るんですよね」
「えー、そこをなんとか!お願いします!」
「…ていうか…なんで定時過ぎたのにこんなもん持ってくるんすか、俺だって帰りたいんですけど」

精いっぱいの嫌味を言ったつもりだったけれど、どうやらこの男には響いていない。
今度は守るから!ごめんね!って、その言葉もう何回も聞いた。聞き飽きた。

なんで真面目にやってるこっちがバカを見なきゃならないんだ。
今日こそは、ガツンと言ってやる。こんなバカに振り回されるなんて、まっぴらごめんだ。

「無理です、俺にだって予定があるんで。さよなら」

渡された書類の束を突き返して、俺はそう言った。
木村は驚いたような表情をして、大きく口を開けている。

「え、ちょって待ってよ!」
「離してください!」

腕をつかまれて、思わず振り払った。
その瞬間、体が大きくバランスを崩して、視界がぼやける。

「あぶな…っ!」

木村が俺の指先を引っ張った。
よりによってこんな奴に助けられるなんて、俺ってつくづくツイてない。
こんな奴に借りなんて、絶対に作りたくないのに。

白い天井と、木村の茶色い髪の毛が目に入る。
ああ、このまま頭でも打って、こいつのことなんて忘れられたらいいのに。

頭の片隅でそんなことを思いながら、俺はそのまま意識を飛ばしてしまった。

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