その声で抱いて (Page 5)
「マコ…っ、イキそう、イっていい?」
「あっああんっ…お兄ちゃんっ、イイ…よっ、イッて…僕のナカで、イって…ぁぁっ」
男がその呼称で呼べば、マコトは一層激しく鳴いて、自身の先端からポタポタと我慢の効かない欲をシーツに垂れ落としていた。
パンパンと互いの肌がぶつかり合う音が激しく、勢いを増していく。限界が見えたその瞬間、男はマコトの耳に唇を寄せた。
「アイシテルヨ、マコ」
「ああっお兄、ちゃん!僕、僕もぉっあっひぁ…ああっーあっあ!!」
ブルブルと全身を震わせて達するマコトの後姿が、可哀想でもあり、どこか悔しくて、男はマコトの首にチュゥッと強く吸い付きながら、彼のナカへと欲を放った。
情事の後特有のけんたい感を覚えながら、男は電子タバコを咥えていた。ややあって、シャワーを済ませたマコトが隣にやってきて同じように電子タバコを灯した。チラリと伺い見た横顔は儚げで、そしてやはり男の方は見もしない。
「マコトくん。聞いてもいい?あのさ、お兄ちゃんって」
一口、タバコを吸ってフーっとゆっくりマコトは息を吐いた。
「従兄弟だよ。5個上の」
「そっか…。好きだったんだ。従兄弟のお兄さんを」
そう、男が言えば、フハ、とマコトは自嘲気味に笑った。
「10年以上、片思いしてたんだよね。で、今日、久しぶりに家に来たと思ったら、結婚報告だった。しかも相手も連れてきて。『結婚式来てね』なんて、言われるんだもん。死のうかと思った」
あっけらかんと話すから余計に、その気持ちの重さを計り知る。
「そう…だったんだ。でも、マコトくんがヤケになって選んだのが死じゃなくて、俺とのセックスでよかった…って言ったらアレだけど」
そう男が言えば、マコトは少しだけ首を動かして一瞬、ほんの一瞬、視線を向けてきた。男がドキッとする間もなくすぐに視線はそらされて、マコトは物悲しそうに目を伏せた。
「なんか…ゴメン。今日初めてゲイバーに来て、アンタの声聞いた瞬間、もう気持ちが止まらなかった」
「えーっと、俺の声…」
「ソックリなんだよ。お兄ちゃんの声と」
そんな予感はしていた。絶対にこちらを見ようとしなかったのは、名前を聞きたがらないのは、その声で違う誰かに抱かれていたからなのだと。
「マコトくん。また俺とセックスしてくれる?」
「え?いいの?」
逆に驚いた様子のマコトに、男は大きく頷いてみせた。
後腐れのない関係が好きだったし、一夜限りなんて珍しいことでもない。それなのに男は、マコトとはこれっきりにしたくないと強く思ったのだ。
「決めたよ。マコトくん。いつか君が、俺の名前を呼んで、俺の顔を見ながらセックスできるようにしてみせる」
「…一生来ないと思うけど」
そう言ってプイと背を向けたマコトの首筋、シャツではギリギリ隠れない位置に、赤く咲いた印を見つけて、男は密かにほくそ笑むのだった。
Fin.
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