君に与えるアメとムチ
恋人が留守なのをいいことにタクミは夜の街へ遊びに行った。相手を見つけてホテルに入ろうとしたとき、出張に出たはずの恋人、柳(やなぎ)が現れる。『人違い』だと最初はごまかしていたタクミだったが、大好物のキャンディーに飛びつき柳のもとに帰る。しかし、帰った直後にタクミは拘束されオモチャで責められて──。
夜の街をさっき出会ったばかりの男と腕を組んで歩く。
久しぶりの既婚者との火遊びにウキウキと心を弾ませる。
「タクミくん、ホテルはここでもいいかな?」
「うん! お兄さんの行きたいところでいいよ」
にっこりと笑顔を返せば、相手はイチコロ。俺の最大の武器だ。
中世的な顔立ちに筋肉がほどよくついた綺麗な身体、低めの身長は結構大人気。
それもタチ専だから、ギャップ萌えも与えられる。
なんて、悪魔のようなアイツがいなければの話だけど。
でも今日は出張とかで帰ってこないから、遊び放題だ。
帰って来る前に家に帰っていればいいし、念入りに身体を洗えばバレる心配はない。
そう思いながらホテルに入ろうとした時、ガンッ…と鈍い音とポリバケツが目の前を転がった。
足に散らばるゴミに、バケツが飛んできた方に視線を向ける。
「はぁ…靴、汚れた」
そう言いながら高級スーツを身にまとい、つま先を地面にノックする男性が一人。
こんな場所には不釣り合いなオーラをかもし出す彼に、俺の身体からはダラダラと汗が流れる。
「えっと…タクミくんの知り合い?」
隣の男の声に無言で首を左右に振りながら、そっと組んでいた腕をほどく。
逃げようと後ずさるも、目の前の男は鋭い目つきで俺の名前を呼ぶ。
「タクミ」
「ッ…ひ、人違いっ!」
「え?」
「うっ…」
久しぶりの火遊びのはずが、まさかの修羅場。
一週間は帰ってこないって聞いてたのに、なんでこんなところにアイツがいるのか。
アイツ、柳は一応、俺の恋人だ。
ちょっとSっ気のある男で、よく変なプレイを強要される。
この前なんて身体の自由を奪われて、オモチャを中に仕込まれたうえ半日放置された。
ほんと、酷い。金持ちなら何してもいいと思ってるのか。
「ほんと、俺、あなたのこと知らなくて…」
とにかくここは他人のフリで逃げ切ろう。
じゃないと後々ヤバイのは目に見えてる。
どちらにしろ逃げなきゃ終わりだ。
だけど彼はポケットから棒付きの丸いキャンディーを取り出して、クルクルと指先で回転させる。
「はぁ、せっかく特別なキャンディーを買ってきたのに…無駄だったかな」
「あ、嘘! おかえり、柳!」
柳に抱き着き、棒付きキャンディーを奪い取る。
ぺりぺりと音をたてながら包装紙をはがすと、パクリと口にくわえた。
さわやかな風味ながら、バニラのような濃厚な甘さが口いっぱいに広がる。
「うんまぁい」
「ならよかった。包装紙ちょうだい」
「ん」
「いい子だね、タクミ」
よしよしと頭を大きな手のひらに撫でられる。
俺の大好きなキャンディーを買って迎えに来てくれるなんて、柳はいい奴だ。
*****
なんて現実はキャンディーのように甘くない。
「んん、んんあっああっ」
お腹の中がブルブルと振動する。
帰って早々、身ぐるみはがされ、アナルにバイブを挿入された。
なぜか帰って来る頃には、身体が熱くなって力が入らず抵抗することができなかった。
足も腕もベッドに固定され、今日は目隠しまでされる。
「あああっ、やああ、も、もうぅッ」
何度目かの絶頂を迎えても、挿入されたオモチャは振動をやめない。
「俺の顔を覚えられないなら、声だけでも覚えようね、タクミ」
「んんんっ、ちゃ、ちゃんと知ってゆぅ…しってりゅう、から」
「それはどうかな? 俺が君を見間違えることはないけど、君は俺だってわからないみたいだし」
近くから柳の声が聞こえてくるのに、一度も身体を触ってもらえずに気配もない。
たまに聞こえるのはパラパラと紙のようなものがめくられる音だけ。
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