箱庭へ続くキミの幸せ (Page 3)

 紘夏がお風呂に行き、リビングに隆紘と二人きりになる。

「カナ、あの子はナニ?」

「なにって…息子だけど」

 離れた距離で、目を合わせずに答える。

 正直、隆紘には会いたくなかった。いや、会えなかった。

 隆紘とは中学からの幼馴染で、五年前までは毎日のように一緒にいた。

 一緒に住んでいたし、そういう関係でもあった。

 でも普通の恋人とは違ったと思う。

 日当たりのいい、広い部屋で、俺は大切に守られて、特別に愛されていたから。

 だけど五年前のある日、俺は隆紘のもとから逃げた。

紘夏を連れて、地元から遠く離れたこの場所にやってきた。

「結婚したのか?」

「…してない」

「していないのに子持ちか。俺の知らないところで女と駆け落ちして捨てられたのか?」

「…関係ないだろ」

「関係ないわけないだろ。俺がどれだけ探し回ったと思ってんだ」

 隆紘の怒声に顔をあげると、彼は眉を寄せて切ない目で俺を見る。

 その瞳に嘘偽りはなく、本当に俺を探してくれていたんだと思った。

 けど、俺にあの頃の気持ちなんてない。

「…探してもらったところ悪いけど、あんたとはもう一緒にいれない」

「子どもがいるからか?」

「…ああ」

 紘夏を理由にしてしまうのは気が引けた。

 けど、それが断るための最善の策。

 あんな生活に逆戻りになるのはごめんだし、紘夏を手放したくないから。

「本当に…ごめんなさい」

 深く頭を下げて、唇をかみしめる。

 一発くらい殴られるかも。そう食いしばっていた俺の耳に届いたのはため息だった。

 それと、幻聴にも聞こえる言葉。

「ごめん、夏鳴」

「…え?」

 顔をあげると、隆紘は俺を真っ直ぐ見て謝罪の言葉を述べる。

「自由を奪うつもりはなかった。でも、お前が誰かといるのは許せなくて、俺も帰りが遅くなることが多くて、そして気づいたときには閉じ込めていた」

「隆紘…」

 沈黙が俺たちの間に流れる。

 なにを言ったらいいのかわからず、口を開いては閉じて…を繰り返していると隆紘が小さな声で言った。

「あの子の母親はどうした」

「…もう亡くなってる」

「籍入れる前に他界したのか?」

「……」

「夏鳴?」

 本当のことを言うべきだろうか。

 でもそれじゃあ隆紘に甘えることになりそうで言いにくい。

 隆紘は紘夏が俺の子どもだって思っているし、本当のことを今更言うなんてできない。

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