箱庭へ続くキミの幸せ (Page 5)
リビングのドアが開いた瞬間、ビクビクと身体が震えた。
ズボンの上からこすられただけで達してしまい、身体からドッと力が抜ける。
膝から崩れた俺の身体を隆紘に抱き留められた。
「ぱぱぁ…?」
その声にハッとして顔をあげる。
紘夏は眠そうに目をこすりながら、不思議そうに俺を見つめた。
「ぱぁぱ…? ぱぱ、どこか悪いの?」
「え、あ…」
「パパはお仕事で疲れちゃってるだけだから安心して、紘夏くん」
それも一番言ってほしくない言葉を口にしながら。
この状況を説明するための嘘なのはわかる。
けど『仕事で疲れてる』は紘夏には言ってほしくなかった。
案の定、紘夏を見れば手をぎゅっと握って、涙目を浮かべながら俺を見る。
「ぱぱ、ごめん…ね。ごめんね、ボクがぱぱに迷惑ばっかりかけてるから…。ほんとうのぱぱじゃないのに、ボクをめんどうみてるから…」
「紘夏、違うよ、違うからっ!」
起き上がろうとしても疲労感で身体に力が入らない。
絶頂を迎えて弱って、息子に嘘で泣かせるなんて最低だ。みっともなくて泣きたくなる。
「ねぇ、紘夏くん」
「なぁに…?」
何を言い出すのか。
隆紘は俺をソファーに座らせて、紘夏へと近づくと出会ったときのように目線を合わせた。
「紘夏くんは夏鳴のこと…、パパのこと好き?」
「え? うん、好きだよ。ぱぁぱが一番、大好きだよ!」
「よかった。なら、いい考えがあるんだ。パパが無理して頑張っちゃわないようにする方法」
「そんな方法あるの? ボクにも教えて、お兄ちゃん!」
嫌な予感がした。
嫌な汗が額から流れる。
「たかひ──」
止めようと手を伸ばしても、もう遅い。
「俺が夏鳴と紘夏くんの面倒を見るよ。これでもいっぱいお金をもってるんだ」
「お兄ちゃんが…?」
「俺と一緒に暮らさない? 紘夏くんが生まれる前は、君のパパと一緒に住んでいたんだよ」
「隆紘ッ!」
思わず大きな声をあげてしまい、紘夏が不安そうな瞳で俺を見る。
子どもをダシに使うなんて最低だ。
そんなもの許せない、許さない。
だけど隆紘はそんな俺を無視して、紘夏の弱みに簡単に付け込んで微笑む。
「そしたらパパもこうして働いて倒れなくなるし、紘夏くんもパパと一緒にいる時間が増えるでしょ? そしたら夜の生活じゃなくてお昼の生活になるしね」
「ぱぁぱと一緒の時間…? ボク、お昼の保育園に行けるようになる?」
「保育園でも幼稚園でもいいよ。朝早く起きて、俺と一緒に出かけて、パパと一緒に帰ってくるんだ。そしたらずっとパパと一緒だろ?」
「お兄ちゃんならできるの…? ぱぁぱ、守れるの?」
「ああ、もちろんだよ。だから俺と一緒にパパと暮らしてほしいな」
「お兄ちゃん、ありがとう。ボクね、大きくなったらぱぁぱをお世話できるくらいいっぱいお仕事がんばるから。そのときにはお兄ちゃんにもおんがえしをするね!」
「わかった。待ってるね」
「うんっ!」
安心したように、嬉しそうに笑う紘夏に、俺の肩からは力が抜けた。
紘夏の笑顔が見れて嬉しい反面、またあの部屋にとらわれるのだと思うと素直に喜べなかった。
「ずっと一緒だね、カナ」
隆紘がこちらを見て微笑む。
彼もまた残酷なことに、安心したように笑っていた。
Fin.
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