メイク・ラブ・クエスチョン? (Page 3)

 ポケットをポンポン…と叩くと、厚さも重さもない。

 女装男子はこれまたゴッタゴタの可愛らしい鞄の中から、見覚えのある俺の財布を取り出した。

「これ、お前のだろ?」

「あ…。助かった」

「いや、職場で落としたのを見たから、あとをつけたんだが…。慣れない靴で追いつけなくて遅くなってしまった」

 どうりで走って追いかけてこないわけだ。

 俺と彼の歩幅じゃ、身長からしても差はかなりある。

 そりゃあ追い付かれるわけがない。

 というより、

「職場で落としたのを見たって…客でいたのか?」

「いや、店側だけど…。ほら、今日、監査あっただろ? 急遽俺が担当することになって行ったんだよ」

「…その格好で?」

「お姉さまの指示だからな。お前が女好きだと聞いて不安だったのだろう」

「俺が誘ってんじゃなくて…」

「わかっている。お前の仕事ぶりは見たし、女性たちに噂されているのも聞いた」

「そんなに心配なら婚約なんて破棄してくれよ。俺は実家の跡なんか継がない」

「そうなのか?」

「だからバイトだってしてんだろ。長いこと家に帰ってねえし」

 代々伝わる名家らしいけど、俺には全くと言っていいほど関係のないことだ。

 あの家に縛られて『女性』と結婚なんかできない。

 彼はこてん…と首をかしげて、真面目な表情でおとぼけたことを言った。

「なら俺から解消するように言っておくよ。感謝したまえ」

「…なんで上から目線なんだよ」

「俺様の方が年上だからな。お前より三つも上だ」

「嘘つけ」

「嘘じゃない! とにかく要件はわかった。後日、書類を送るからサインしておけ!」

 そう言って女装男子は走り出した。

「ふっ…」

 その可愛い姿に思わず笑みを浮かべたその時…、彼が前のめりにべしゃんっと倒れる。

「あうっ!? う、うぅ…いったい」

 ふと『履きなれない靴で走れない』という言葉を思い出して駆け寄る。

 すると彼は瞳を潤ませて、擦りむいた膝をたてた。

「お前のせいだ…うぅ」

「なんでだよ。ほら家の奴呼べよ」

「うぅ…こんな格好見せられない」

「なんでだよっ」

「俺様がケガしたとなれば大騒ぎするだろ! それにこの格好で病院は、その…恥ずかしい」

 女装で仕事するのはよくて、病院に行くのは恥ずかしいとかどんな理屈だよ。

 このままほっといてもいいが、やっぱり後味が悪いので…。

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  • セキ on 通い猫に恋をしたこのまま結婚すらゃあいいのに