元教え子の行為と好意を跳ね返せなかった高校教師の後悔 (Page 2)
「今日から2週間、よろしくお願いいたします…松原先生」
悠作の元だった。
「それでは担当の先生方。本日から2週間、ご指導よろしくお願いいたします。以上です」
朝の職員会議が終わってホームルームの時間が近付き、締めの言葉と同時に教師たちも職員室を出た。
(よりによって何で担当がオレなんだよ…)
多数の偶然の重なりに内心でそう呟きながら、悠作は後ろを着いて歩く赤崎に顔だけ向けた。
不意に目線を合わせると、赤崎は固い表情をほころばせて笑みを浮かべた。
「先生が担当で…心強くて、すごく安心しました」
「そうかよ」
「お元気そうで、よかったです」
「…あ、ああ」
(何だ、意外と普通だ)
気まずそうでもなければ挑発的でもない。
だからといって卒業式のできごとをむし返しもしない。
当然の振る舞いだと、もちろん悠作は理解しているつもりだ。
しかし…
(安心したけど…オレだけこんなに意識して、バカみてえ)
拍子抜けしたが安心したと同時に、少しだけ寂しい気持ちにもなった。
*****
(あっという間だったな、2週間)
1学年だけを招集した小規模な集会中。
実習生を代表して赤崎が発する言葉を聞きながら、悠作も2週間を振り返った。
何かを教えればすぐに覚える。
生徒との距離感もきちんと取れていて初日から人気者。
授業内容も的確でわかりやすい。
優等生ぶりは健在なんだと、悠作は赤崎の様子を2週間見ながら感心していた。
「2週間、貴重な経験や時間をありがとうございました」
締めの挨拶の後、生徒や教師から赤崎は盛大な拍手を受けて壇上から下りた。
集会が終了すると、全クラスが教室へ戻って解散した。
教室に戻ると帰りのホームルームが始まり、ここでも赤崎は担当になったクラスの生徒に挨拶をした。
1人1人の席に周り、メモ帳サイズのメッセージカードを手渡していく。
(律儀だな…)
笑顔で丁寧に一言ずつ言葉を交わす様子を眺めていた時だ。
「松原先生も、2週間ありがとうございました」
最後に悠作にも挨拶をし、生徒と同様に小さな紙を手渡した。
「はい。じゃあ後は赤崎先生、最後の挨拶よろしくお願いします」
赤崎に帰りのホームルームの締めを任せて解散させると、悠作はそのまま教室を出た。
「そういえば、さっき見てなかったけど、何て書いてあったんだ…?」
もらったまま見そびれていたメッセージカードを確認してみる。
”卒業式の日と同じ教室で16時に待っています”
「…」
書いてあった内容に、悠作は心臓の鼓動がドクンと大きく乱れるのを自覚した。
こんな回りくどい呼び出しに応じるべきじゃない。
応じたら面倒な事態になる。
そう思いながらも、悠作は腕を上げてチラリと腕時計に視線をやった。
2つの針が示す時刻は16時5分前。
(行くな、行くなオレ)
揺れる感情を正すよう顔の筋肉を強張らせて心中で呟きながら、悠作は職員室へ早歩きで向かう。
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