三年越しの再会は (Page 2)

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 ――…雑踏に紛れ込むように繁華街を歩く。会社からの辞令がおり地方へと地方転勤すること早三年、ようやく戻ってこれた地元は相変わらず喧騒としていて居心地がいい。賑やかなくらいが丁度いいと、懐かしい居酒屋に一人で入って窓際の席に郁人は座った。
 ごく普通に過ごして来た三年だった。新しい恋人も作らず真面目に勤めあげた。その自負はある。新しい支社の仕事もそつなくこなし、人間関係も真面目に作り上げて来た。それでも恋愛だけはする気になれなかった。

「……一佐……」

 運ばれて来たビールをあおり思わず呟き落とした、別れた恋人の名前。水滴を纏ったグラスに吸い込まれるように……誰の耳にも届かないほど小さな声で。
懐かしい名前だ、転勤から三年。遠距離はできないと話し合い別れたあの日から、音にすることはなく忘れることができなかった元恋人の名前。
 感情があるのかと問われればなんとも言えない、言えないが忘れることもできない。気移りしやすい郁人が、たった二年とはいえ続いた恋人を忘れることができず、いまだに新しい恋人を作ることができずにいて。

 出会いがなかったわけじゃない。

 整った顔立ち、すらりとした細身の身長、大きな掌としなやかな手指。甘く低い声は男女問わず惹かれるものを持っている郁人だ。付き合おうと思えば新しい恋人なんてすぐにできたことだろう。それでも作る気にはなれなかった。

「お勘定、頼めるかな?」

 久し振りに思い出した元恋人が、脳裏にチラつく。馴染みだった居酒屋はもうすっかり新しいスタッフに入れ替わっていてどこか落ち着かない場所になっていた。大学に通いながらバイトをしていたスタッフは、今何をしているのだろう?

 外に出ると油と煙草の臭いと男女入り混じった香水の匂いが鼻をくすぐった。懐かしいが慣れない匂いだ。ビール一杯で酔えるほど下戸じゃない、しっかりとした足取りで予約を取ったビジネスホテルへと向かう。

「――…」

 不意に、向かい側の歩道にさきほどまで脳裏に浮かんでいた背格好をみつけた気がした。手元のスマホに視線を落とすその男性は、この距離ではちゃんと確認はできないが、間違いはない。横断歩道の信号が青に変わった瞬間走り出し、その男性の手首を掴んだ。今まさに歩き出そうとしていた男性は驚きのままに視線を上げ、郁人の顔を見た瞬間泣きそうな表情を浮かべて。

「……え、夢?」

 往来の中、ただ一言。

「一佐、……だよね」
「郁人、さん」
「……ッチ。一佐、こっち」

 長身の男二人が二人で立ち止まって居ると人目につく。舌打ちを一度打ったあと辺りを見渡し近くの路地へと一佐を引き連れ移動した。

 人混みからすこし離れたそこは物音こそ聞こえるが二人きりの空間程度は作ってくれて。抱き締めながら口付けを交わし舌を捩じり込む。すこし甘く感じる唾液が懐かしくて、一佐を抱き締める腕に力が入った。
 郁人の長い腕に丁度収まる身体を撫でながら性急に着衣を乱す、わずかに露出した肌はあいも変わらず白く、日焼けを知らないままだった。

「一佐、許してくれ」

 返事を待つ余裕は、すでになかった。

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