オメガがアルファを騙る理由

・作

宗像薫(むなかた かおる)は生まれついての名家の御曹司として生まれ、必然的にアルファとして育つ。しかし彼は突然変異にみまわれ後天的オメガへとおちてしまった。親にも誰にもいわず高額な治療を受け、アルファを騙る(かたる)が宗像家薫専属の執事、和彦(かずひこ)に打ち明けて……。

「っぁ、あ、っあ、あ…… !」

 ぐちゅぐちゅとした音が聞こえる。腹のなかを掻き乱す陰茎はコンドームを着けていたが、先走りで液溜まりが埋まるほど興奮していた。逞しい腕が上質なベッドの上で自分を大事に抱いていた。

「かず、ひ……っ、あ、そこ、そ……ぁ、あああ」

 ぎゅう、とシーツを握り、腰を高く突きあげて。快楽に悶えながら、いま自分を抱く男の名を呼ぶ。どこを穿てばいいのか、初めてのセックスなのに、相手には知られているようで。

「薫、さ、ま……っ」

 ぐぷぐぷと行き来し、項(うなじ)に噛み付いたままの和彦が名を呼びかえした。自分でも頼りないと思う腰を掴まれ、ただただ自分の性感を刺激できるように理性を瀬戸際に掴みながら、抱かれる。
 一心同体といえるほど、そばにいた。和彦は親代わりのようなものだった。いつか自分にも番ができて、その時はこの屋敷に住んで。

 なぜ、いま和彦が自分の項に噛み付きながら、セックスしているのだろう。

 この、アルファしか居ない筈の屋敷の一室で。

*****

 突然自分の性が、変わってしまった。なんて、そんな絵空事に見舞われるなんて誰が思っただろう。よくある三流雑誌の片隅に載っているような、そんなことに自分がなるなんて誰が思うだろう。

 少なくとも薫は望んでなかった、そんなこと。アルファからオメガにおちる、だなんて思いもよらなかった。逆ならまだわかるが王座から陥落したかのような心地だ。

 それでも今の医学は発達していて、金をかければアルファだと騙ることができる。そういう世界を知ることは恥じゃない、うまく回していけば以前となんら変わりのない生活がおくれると気付いたのだ。

 その生活をえるためには金が必要だった。

 幸いなことに薫には金が湯水のようにあった。18歳のとき誕生日プレゼントとして贈られた株をすこし弄った結果軌道に乗り、19歳のころにはその株は資産といえるほどに成長してくれた。

 ゆえに、非合法的な治療を受けても金銭的問題はなにもなかった。

 両親は、いまだに薫がオメガになったことを知らない。この家でこの事実を知る者は誰もいない、

――…はずだった。

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