オメガがアルファを騙る理由 (Page 3)

「……ははっ。……これはアルファだったら噛みたくなるな」

 別邸(べってい)に構えている薫の部屋で聞こえた声。発情期誘発剤を使って三十分ほど経ったころ。部屋の中はむせ返るほど純粋なオメガの匂いに包まれた。そこにアルファの香りは混ざってはおらず、和彦もアルファの発情期(ラット)に入りつつあって頭の中が性欲でみたされるように、考えることが難しくなって来ている。
 和彦も優秀なアルファ性だ、まともに発情期を迎えている薫を前に理性を保つことが難しい。
 ベッドのうえで薫が仰向けになり腕を目の上へと乗せ、そのかたわらに和彦が腰をかける。

「……そろそろ大丈夫そうだ、和彦」
「は、い」

 発情期を迎えたオメガは分泌液を出すことで秘所が濡れる。すでに全裸な二人はすぐにでも行為に及べる状態である。あまり見ないようにはしていたが、オメガになったとはいえ元はアルファだった名残なのだろう。薫の性器はオメガにしては小さくない。これなら今後アルファを名乗ることができるだろう、それ程に大きい。なのに穴は濡れている。とても不思議な光景だった。

「解しますか?」
「いや……しなくていい」
「かしこまりました」

 とはいえ純粋なアルファである和彦の性器は薫よりも大きい。一応、避妊としてコンドームは着けてある。ヒート時にセックスしたときの受精率は100%だがこれなら孕ませてしまこともないだろう。薫の脚を開かせ凶器のようなソレを穴へとあてがう。躊躇(ちゅうちょ)はあるがもう頭がどうにかなってしまいそうで。両膝から太ももを撫でたあと、根元を支えながらぐぷ…… と挿入を始めた。大きく張り出た雁首(がんくび)は分泌液を使って、難なく薫のナカへと入っていく。

「ぁ、あ、あ…… っ」
「…… っ」

 強い締め付け感と、ナカのうねりに腰がおののく。少しずつ少しずつ腰を進めた。それだけでは恐らく快楽が足りないだろうからと、薫の性器に指を絡めしごく。

「っ! あ、は、ああ、」

 締め付けが緩んだ瞬間、肌の衝突音がするほどの勢いで、一気に穿った。

「――…! は、は、ぁ、かず、ひ、…… っぁあ、あ!」
「……っ、苦しくは、ありません……か」
「ぁ、いい、いい、」

 まるで壊れた人形のように言葉を繰り返し、和彦の性器を締め付ける。ナカもうねり絡みつくかのようで。被膜ごしでも、和彦の本能を殺しにかかった。

 子孫を残したい、と。薫の腹の中に自分の子種を残したいと、どうしても思ってしまう。

 だがそれは使用人として許されない、必死に本能を押し殺して、律動を始めた。

「あ、ぅ、あ、ああ、は、……あ、っ!」
「は、……ぁ、……っ、薫さ……」
「ひ……っぁああっ!」

 なけなしの理性で、必死に薫の快楽だけを望むのに、和彦の身体はいうことを聞いてくれない。アルファの性が突き動かす、このオメガを孕ませようと。

 そんなこと、無理だと知りながら。

 ばちゅんばちゅんと肌が打ち鳴るほどに腰を揺らし、繋がったまま薫をうつぶせへと体位を変える。ごりごり結腸を暴いて快楽をあたえながら。どう動けばいいのかは長年育てて来た身だから、本能が知っている。
 甘い声でもう限界はとっくの昔にむかえていた。襟足を鼻先で掻き分け真っ白な項へと口付け、強く噛みつく。

「ぃ、あ、っは」

 苦し気な声も聞こえないほど、そこに執着を見せ何度も何度も噛み付いて。つぅ、と赤い血が伝い落ちても最早止まることができない。噛んでは舐めて、腰を揺らし、それでも薫より先にイかないように耐えて。

「ぁ、あ、あ、ああ、っ」

 痛みと、番になったせいか、薫の絶頂が近い。亀頭球が膨らみ始めている。ただ和彦の亀頭球もすでに膨らんで居て、果てる時は一回抜かないとコンドームが受け止めてくれる限界を超えてしまいそうで。

 口惜しい、なぜ番になったのに孕ませることができないのか。

 そんなことが思わずよぎってしまうほどに目の前のオメガに夢中になっていて。まぶたを閉ざし、頭を冷静に立てなおす。孕ませたいと思いながらも薫の性器を扱いて。ふいに、びくっと薫の身体が跳ねた。頭を仰け反らせ、喉と肺を繋げて、絶頂に向かってびくびくと腰を揺らす。

「あ、イく、イくイくッ和彦、手、止めろ……!」
「それ、は……ようございましたッ」
「ぁ、――… !」

 扱いていた手を止めるが手のひらは添えたまま。脈動を感じながら、薫の性器から精液をどろりと吐き出す。勢いはなく、まるでジェルのような白濁だ。初めて体感する絶頂に耐えきれず、薫はまぶたを閉ざし気絶した。

 その間に和彦は亀頭球が完全に膨らみ切ってしまうまえにずるり、と陰茎を引き抜き、コンドームを外し達する。アルファの射精はとにかく長い。とくん、とくんと精子を手のひらのうえに吐き出す。

「は、……っぅ」

 苦し気に、声を押し殺し精液が溜まっていく手のひらを見ながら。

 込み上げて来た涙は、本能を殺したからか、それとも薫のことを考えてのものだったのかはわからない。

 涙は耐えることができず、つぅ、と頬を伝った。

Fin.

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