コハク色の罪の香り (Page 3)

そんな会話をした2ヶ月後、22時前に駅から出てきたトオルはフラフラとした足取りでコハクの店を目指していた。

週に2日、多い時は4日も通っていたその店を、今日は2週間振りに訪れる。大きな仕事を任されることになって、なかなか店にこれなかったのだ。ようやくそれも落ち着いてきて、今日は何とか店に行けそうだった。

「トオルさん!?」

店の前まで来たとき、丁度コハクも外に出ていて看板を片付けているところだった。トルコランプの灯りも消えている。

「あ…そっか、もう閉店…」

時計は22時丁度を指していた。コハクは看板を裏返して扉の隣にしまうと、トオルを見て優しく笑う。

「せっかく来てくれたんですから、よかったら寄って行ってください」

フワフワとコーヒーの匂いが立ち込める場所にトオルは居た。それはとても心地よくて、暖かかった。そして、優しい声がトオルに囁いてくる。

「さん…トオルさん」

トントンと肩を叩かれてトオルはハッとする。そこはいつもの店のカウンターで、さっきの心地よい場所は夢だったのかと悟る。

「すみません。お疲れのようだったので、今日のコーヒーにブランデーを数滴垂らしてたんですが、キッチン片付けて戻ってきたらトオルさん眠ってて。起こすのも可哀想だったんで先に店の掃除終わらせてて…そろそろ時間もマズイかなと思って起こしたんですけど」

コハクはそう言いながら、心配そうにトオルの顔を覗きこんできた。

それが、いけなかった。
まだ夢心地のぼんやりとした思考では、状況も立場も考えられるはずがなかった。
ただ、目の前のコハクの顔が好きだとトオルは思ってしまったのだ。

スルリと伸ばした手でコハクの頭を引き寄せて、桜色をした唇に口付けていた。それは触れるだけの一瞬で、そしてその一瞬はトオルの目を覚ますには充分だった。

キョトンとしたコハクの顔と、たった今自分がしてしまったことに、トオルは今になって慌てだす。

「あの、違くて…寝ぼけてて、俺はっ」

コハクの目がスッと細められた。

「あーあ」

いつもより1トーン低い声と共にコハクは深く息を吐くと、綺麗な髪をクシャクシャとかいた。
スーッと背筋に嫌な汗が流れるのを感じて、トオルはゴクリと生唾を呑む。出禁になるぐらいならまだいい。訴えられてもおかしくないぐらいのことをしてしまったのだ。

最悪だ…と、いたたまれなくなってうつむくトオルの肩がガシリと掴まれた。

「客には手出さないって決めてたのにな」

「あ…あの、コハク、くん?」

「でも、悪いのはトオルさんですよね」

言ってコハクは、掴んでいたトオルの肩をカウンターテーブルグイと押し付ける。

テーブルに突っ伏す形で上体を押し付けられて、トオルはどうしようもなくキュゥと下唇を噛む。ズシリと上にのしかかられて、ドク、ドク、と自分の心臓が騒いでいるのがやけに煩く感じていた。

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