ヤンデレ部下に御用心

・作

優秀なビジネスマンの伊崎は、しばらく日本を離れることになった。送別会を終えた夜、終電を逃した伊崎は部下の椎名の自宅に泊まることに。しかし、椎名にはある計画があった。伊崎が目覚めた時、椎名の切ないほどゆがんだ愛情が牙を剝く…!

週末でもないのにタクシーはつかまらなかった。

伊崎智也は、繁華街の大通りで手を上げる部下の後ろで、灰色の夜空を見上げていた。

「東京ともしばらくお別れか」

伊崎はこの週末に日本を離れる。

シンガポールで新しい事業を立ち上げるためだ。

今夜はそんな伊崎の送別会だった。

「伊崎さん、ダメです。全然空車来ません」

大通りから部下の椎名光が駆け寄ってきた。

椎名は伊崎直属の部下で、優秀な営業マンだ。

まだ20代半ばというのに成績はトップクラスで、伊崎の右腕のような存在だった。

「すいません、僕がどうしても2人で飲み直したいなんて言ったから…」

「気にすんな。送別会じゃあんまり話せなかったしな」

伊崎は申し訳なさそうに目を伏せている椎名の肩を叩いた。

切れ長な瞳に長いまつげ、真っ直ぐに通った鼻筋、形のいい唇。

伊崎は椎名が同じ部署に配属された日のことを思い出した。

女性社員は色めき立ち、男性社員は嫉妬に眉をひそめていた。

「伊崎さん…明日は引っ越しの準備って言ってましたよね?」

「あぁ。準備といっても独身中年男の部屋なんてあっという間に終わるけどな」

「よかったら…今夜、うちに泊まりませんか?」

「え?いいのか?」

「ここから歩ける距離なんです。それに日本を発つ前に風邪なんてひけないでしょう」

伊崎はかわいい部下の心遣いに頷いた。

冷えた指先に息を吹きかけると、白い吐息で目の前にいる椎名の輪郭が少しぼやけた。

*****

伊崎は下腹部の違和感で目が覚めた。

見慣れない天井、馴染みのないベッドの質感、知らないシーツの香り。

「ここ…どこだ?」

椎名の部屋で軽く飲み直したところまでは覚えているが、それ以降の記憶がなかった。

「やっと目が覚めましたか」

頭上で声がして顔を上げると、椎名がいつもの美しい顔で伊崎をのぞき込んでいた。

シャワーでも浴びたのだろうか、下着姿で普段セットしている髪を下ろしていた。

「椎名…んっっ…!?」

起き上がろうとした伊崎は、自分が拘束されていることに気がついた。

両手、両脚首が黒い革ベルトで四方に括り付けられている。

まるで標本にされた蝶のような格好だ。

服は一切身につけていなかった。

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