火遊びにハマる夜

・作

きまぐれに参加した大学のボランティア。その後の飲み会で識(しき)は一つ年下の明人(あきと)と知り合い意気投合し惹かれ合う。恋人はいてもなかなか会えず、欲求不満状態だった識は酔った勢いもあって明人とホテルに入った。

「本当にいいんすか?」

 ラブホテルの部屋に入るなり、明人がそう尋ねてきた。

「ここまできて怖気づくなよ」

 識は持っていた荷物を近くにあったソファに放り投げ、ベッドへと足早に向かう。

「シャワーは?」

「いらない。時間がもったいない」

 言いながら識は靴を脱ぐと先にベッドに上がった。

「服脱いで、俺も脱ぐから――」

 ショートタイム二時間で約五千円。お金が惜しいわけではなく、惜しいのは時間のほうだ。

 ベッドの脇に立ちシャツを脱ぐ明人を見つめ、識も性急に服を脱ぎながら「早く――」と急かした。

 割れた腹筋を惜しげもなくさらした明人が片足をベッドにかけ、識の頭に手を伸ばしてきた。

 識は金色のアシンメトリーの前髪を撫でる大きな手に頭を擦り寄せ、近付く顔に目を閉じてキスを受け入れた。

*****

 明人と知り合ったのはほんの数時間前のこと。

 きっかけはきまぐれに参加した大学のボランティアだ。

 活動時は班が違っていたため顔を合わせることはなかったが、その後の打ち上げの飲み会でたまたま隣同士に座り、意気投合した。

 アッシュグリーンに染めた髪は短く刈られ、広い肩幅に一七〇センチの識よりも頭一つ分は高い身長。

 初見では厳つい印象を抱いたが、自己紹介とともに「よろしく」と向けられた人懐っこい笑顔に識の緊張は一気に解れた。

 年齢は識よりもひとつ下で、ほどよく日に焼けた肌に似合う精悍(せいかん)な顔立ちに屈託(くったく)のない笑顔。ほんの数分話しただけで、識は明人に惹かれていた。

 けれど、識にはすでに恋人がいる――と、いっても相手は多忙の社会人で会えない期間が長く関係は冷め気味だ。

 フリーなら、例え相手がノンケでもどうにかして事を運べたのに…と、密かにため息を吐いた。

「彼女とかいます?」

 識が三杯目のハイボールに口を付け酔いが回り出したころ、ビール二杯ですでに頬を赤く染めた明人が首を傾げそう訊いてきた。

「彼氏はいる」

「え?」

 カミングアウトのつもりはなく、ただ単に訊かれたことに答えただけの話。

「引いた?」

 ハハッと笑いながらグラスに残った酒をあおり、明人を見ると、明人は首を横に振り同じように残りの酒を飲み干した。

「いや、俺も同じなんで…」

 だから訊いたんすけど――しどろもどろに、目線を逸らす明人の言葉に、識はグラスを置き、華奢な肩をすくめてテーブルに頬杖を突いた。

「なに? 俺のことタイプとか?」

 さりげなく、からかい口調で腹の内を探った。

 自分の魅力は自分がよく知っている。小首を傾げ、細めた目で明人の顔を覗き込む。

「…まあ、そうっすけど」

 図体に似合わない遠慮がちなくぐもった声にくすりと笑い、識は「なら――」と片手を下げて明人の太ももの上に置いた。

 ほんの一瞬だけ脳裏をよぎった恋人の顔。識は軽く頭を振って払い、明人にしか届かぬ声量で告げる。

「二人で、抜けちゃおうか」

 こんなチャンス、逃すわけにはいかない。

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