告白のあとの進め方
及川陽人(はると)には付き合って3ヶ月になる恋人、宮下涼(りょう)がいる。高校時代から親友だった涼からの熱い告白で始まった付き合いだ。だけど「恋人」となってからも二人の間には特に変わりはなくて、陽人は涼からの愛情をどう考えてよいか混乱していた。そんな時に陽人の部屋に終電を逃した涼が泊ることになり…。
(だめだ…眠れない)
陽人は眠るのをあきらめて、ゆっくりベッドから起き上がった。
カーテンの隙間かられてくる明かりでは顔までは見えないが、向かいのソファーではタオルケットを抱きしめながら、涼が長い体を丸めて寝ているようだった。
(安心して眠りやがって…)
涼の顔をのぞき込みながら、陽人の中にモヤモヤした感情が沸き上がってくる。
*****
明るくて体育会系の陽人と、頭の回転が速くて人の好き嫌いがはっきりしたインドア型の涼は何故か気が合い、5年前に高校で同級生になってからずっと親友だった。
学部は違うが、大学も同じところに進学した。
この進学先については涼が陽人に合わせて少しランクを落としたのではないかと、陽人は疑っている。
勉強もスポーツもそつなくこなしルックスもよかった涼は、初対面の女子達の目をハートにさせていたが、無表情で愛想のない態度のためか高校でも大学でも「残念イケメン」と言われていた。
そんな涼だが、陽人と一緒のときにはリラックスして趣味やバカ話のできる面白い人間だった。
「陽人くんて可愛い~、でも、おかんみを感じる~」としか女子に評価されない陽人は(涼ってモテすぎて女嫌いなのかな)などと考えていたのだが、3ヶ月前に涼から「お前が好きだ」と言われて腰を抜かすほど驚いた。
「友達だろ、冗談言うなよ」と言いそうになった陽人だが、涼の思いつめた顔を見て口をつぐんだ。
涼は「ずっと恋愛感情をもっていた。女の子に声を掛けられたときには、陽人が好きだからって断ってた」「残念イケメンは陽人好きを公言していたからだ」「恋人になれないなら友人関係も続けられない」と立て続けに告白し、さらに陽人を驚かせた。
陽人は恋愛は女の子とするものと疑わずに20年生きていたが、あまり感情をのせることのない涼が必死に愛の告白をする姿には、胸を揺さぶられた。
気持ちはわかった、でも返答までしばらく時間が欲しいと陽人がいうと、涼は「悩んでくれる余地があるんだな」とこれも初めてみせる気弱な笑みをみせた。
3日間悩んだが、告白の熱さと真摯さへの感動と、涼の必死な表情の美しさを思い出すと気持ちが固まり「突然で驚いたけど、俺も涼が好きみたいだ、付き合おう」と陽人の部屋で返答した。
伝えた瞬間に涼の顔が明るく輝き、「ありがとう」と言って陽人の手を握りしめ、キスをされた。軽く唇に触れるだけのものだったが、陽人は驚いて固まってしまい、「急ぎすぎた、悪い」と笑顔の涼に言われてもぎくしゃくと頷きかえすので精いっぱいだった。
驚きながらも涼のキスに嫌悪感はなく(そうだ、付き合うって行為も含まれるんだな)と陽人は覚悟を決めた。
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