五感すべてで君を感じたい
ケンゴとリュウは付き合って4年になる恋人同士だ。社会人になり同棲を始めた二人だったが、リュウはケンゴの束縛にうんざりしてきていた。ケンゴからの連絡を無視して飲み会に参加したリュウだったが、帰宅するとケンゴが上に乗っかってきて…!?
――ピロン
本日何度目かわからなくなった着信メールを告げる音。
携帯を見なくても相手はわかっている。
立て続けに鳴った着信音に、とっさに通話をタップした。
「リュウ!やっと電話に出てくれたね。ねぇもう9時だよ、いつになったら帰ってくるの?」
「だから会社の飲み会だって言ったじゃん!しかもまだ9時だよ!さっき始まったばっかりだよ…」
「じゃあ何時に帰ってくるの?」
「終わったら帰るって言ってんじゃん!俺だってまだ新人なんだから、途中で抜けるなんてできないよ!」
「心配だよ、できるだけ早く帰ってきてね」
「はぁ…わかったよ」
通話を切ったあと暗くなった画面を見て、溜息を付いた。
電話の相手である『ケンゴ』は、俺の恋人だ。
大学時代からの付き合いで、もう4年は一緒にいる。
社会人になるとき、ケンゴは同棲を持ちかけてきた。社会人1年目で同棲は早すぎると思って断ったが、あまりにケンゴが必死に説得してくるから、俺が折れるかたちで同棲を始めた。
大学時代とても優しかったケンゴは、同棲を始めても相変わらず優しかった。
料理も上手だし、家事も器用にこなしてくれる。俺の仕事の帰りが遅い日は、お風呂にご飯に布団、すべてが準備されていて甘やかされていると思う。
けれど最近俺は、そんなケンゴに少しうんざりし始めていた。尽くしてくれる相手に対して酷い仕打ちだとは思う。けれど最近のケンゴはというと、少し帰りが遅くなるだけで数十件のメッセージと着信。会社や友人との飲み会がある日なんか、息つく間もないくらい連絡をしてくるのだ。
この状況でうんざりしないわけがない。ケンゴの心配性は度が過ぎているのだ。
また数分後には、この携帯が鳴るだろう。そのことを思うと気が重い。俺は思い切って携帯の電源を落とすことにした。これが大変なことになるとは、思わずに。
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