お隣さんに誘われて
泉良樹はブラック企業で働く営業マンだ。いつもの様に疲れて帰宅し、マンションの窓を開けて煙草を吸っていると、まさか向かいのマンションの男が自慰をしているところを目撃してしまう。ゲイではないのに、良樹はその姿に魅入ってしまい…。ヌいてあげようかと微笑む男に良樹はどうする!?
「…ったく、何時間働かせる気だよ」
思わずはぁと大きな溜息が出る。
俺こと、泉良樹(いずみよしき)はいわゆるブラック企業というやつで働く、しがない営業マンだ。顔も仕事の成績も収入もすべてが平均的。むしろこの長時間労働を考えるともっともらってもいいくらいだ。
疲れた体を引きずりやっとの思いでついた我がマンション。一服するかと窓を開ける。この単身者向けのワンルームマンションは、相場に比べて少し家賃が安かった。何故なのかと疑問に思っていたが、内覧してすぐに納得した。そう、隣のマンションが異常に近いのだ。
向かい合わせになった窓は、声を大きくしなくても隣のマンションの住人と会話ができそうなくらいに近い。もし隣のマンションに同じくらいの年の女性が住んでいたなら、よくある窓越しのラブロマンスが始まりそうなくらいの距離なのだが、まあ当たり前の様に女性はほとんど住んでいないらしい。
どうせ日中は仕事で家に居ないのだ。陽が入らないことなんか気にならない俺は、すぐに入居を決めてしまった。
いつもの様に煙草を口に加え、火を付ける。大きく吸ってふぅと煙を吐き出したあとに、いつもならしっかりとカーテンがしまっている隣のマンションの同じ階の部屋が視界に入った。しかしなぜか今日は大きくカーテンが開いており、部屋の様子が丸見えになっていた。
「あんまり見たら失礼だよな」
心の中ではわかっているものの、ついつい見てしまうのが男心というやつだ。俺は、欲望に勝てずに、見ない様にそらしていた視線をそっと向かいの部屋へ向けた。
「…っっ!?」
目の前に広がる光景に、声が出そうになった口をとっさに塞いだ。
覗き込んだ部屋にまず見えたのは、多すぎる肌色。
状況が理解できずに一瞬フリーズしてしまったが、この状況でもすぐに頭が理解してくれた。
…一人で…してる?
その人物は、ベッドの上で素っ裸のまま四つん這いになって、しかも窓側に尻を向けてるもんだから、俺からはすべて丸見えだ。
2本の指が後ろの穴を激しく出入りしているのが、はっきりと見えた。ねっとりと濡れた指が糸を引いて、俺は思わずゴクリと喉を鳴らしてしまった。
「…んっ、あ、ダメ、ん…」
俺が固まっていると、窓の向こうから微かにもれでる声が聞こえた。完全に男の声だ。当たり前だ。指を入れている穴は完全に後ろの穴で、その下で男性の象徴であるものが小刻みに震えている。
嘘だろ。
わかってはいる。俺は生まれてこのかた性的な意味で男性に興味を持ったことはない。俺はゲイじゃない。そう、わかっているはずなのに。
「…ンッ、イク…イっちゃいそう」
微かに聞こえてくる声に、ドクンと俺の心臓が高鳴った。激しく出入りする指から目が離せずに、粘着質ないやらしい水音まで聞こえてくるような気がした。
おそるおそる視線を下に向けると自身の股間がテントを張り、窮屈そうにしている。
そっとそこに手を伸ばし、今一度、視線を彼の方へ向けた。
するとあろうことか、ベッドの上の人物とぱちりと目が合ってしまった。
さっきまで後ろを向いていたはずなのに、どうやら俺がよそ見をしている隙に、俺の存在に気づいてしまったようだ。
…覗きって犯罪だったか…?
あまりの気まずさにすぐに視線を逸らすと、しばらくしてガラガラと窓を開ける音がした。驚いて視線をあげると、汗でじっとりと濡れた髪をかきあげながら、男がくすりと笑った。
「…ヌイてあげよっか?」
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