初恋~可愛い後輩の秘密~

・作

後輩の綾瀬凪人にいつも「大好きです」といわれている壮馬。ある日、部長からお見合いの話が持ち上がった。しかし、壮馬は初恋の「ナツキ」のことがいまだに忘れられない。そして、夜の会議室に呼び出された壮馬は綾瀬から初恋の人しか知らない呼び方をされた。

「先輩。僕、先輩のこと大好きです」

笑顔で後輩から告白された。嬉しい…嬉しいのだけど、後輩は男だ。

「先輩として尊敬されてるのは嬉しいぞ。あと、書類確認したから訂正場所をしっかり直しておけよ」

あえて流した。この告白は、出会ってからもう10回目だ。懲りずに俺に告白をしてくるのは、綾瀬凪人(あやせなぎと)。俺が指導していた後輩の1人だ。

「壮馬(そうま)先輩は、いつもクールですね。僕、惚れ直しちゃいます」

「尊敬し直すの間違いじゃないのか?それに、俺は綾瀬になにかしたか?」

「しましたよ。じゃあ、書類を訂正してきます」

嬉しそうに俺の横を通りすぎる。ちらっと横顔をみると、彼は恋する乙女のような表情をしていた。本当に俺が好きなんだなと思った瞬間だ。

しかし、俺、なにをしたのか思い出せない。綾瀬と知り合ったのはこの会社に入ってからのはずだからだ。

綾瀬は人当りもよく、仕事もそつなくこなすやつだ。スーツを着ているが、中性的な顔立ちをしているのでよく女性と間違われている。そのため、人一倍仕事を頑張ってからかわれないようにしているらしい。

そんなとき、部長からお見合いの話が持ち上がった。どうやら取引先の娘らしい。部長の顔に泥を塗らないように今回は出ることにした。

しかし、俺には忘れられない女の子がいる。ナツキという女の子で4歳年下で太陽みたいな笑顔をいまでも忘れることができないほど好きだった女の子だ。

だが、彼女は俺が中1のとき、なにもいわずに姿を消してしまった。楽しくも切ない思い出を忘れないまま今に至るのだ。

「先輩、お見合いするんですか…」

どこからか聞いてきたのだろう。休憩室で綾瀬が話しかけてきた。

「部長の顔に泥を塗らないように会うだけだ。俺は、そもそも乗り気じゃないからな」

「先輩…きょう、二人で話したいので残ってもらってもいいですか?」

綾瀬が真剣な顔で俺をみていった。また告白なのだろうと思ったけれど、今回はいつもと雰囲気が違っていた。

「わかった」

俺は、その一言を残して、仕事に戻った。

19時、会社の人間は俺と綾瀬だけになっていた。俺たちの会社はホワイト企業なので、定時でみんなが帰る。

会議室に促された俺は、呼び出したわけを綾瀬にきいた。

「どうしたんだ?悩みでもあるのか?」

いつもにこにこしている綾瀬が、悲しそうな顔をしている。

「壮馬先輩…大好きなんです…」

「それはなんども聞いている。だけど、俺は…」

「なんで気づいてくれないの!そうくん!」

その呼び方をされて俺は目を見開いた。その呼び方を許しているのは家族とナツキだけだったからだ。

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