今夜もずっと君のもの
ショーイチとノエルは共にモデルとして活躍している。あるとき2人は、事務所の社長に呼びだされ、2人が路上でキスをしている写真が撮られた雑誌を見せられた。酔った勢いだと弁明するショーイチにノエルはどこか不満気で――
神妙な空気が室内に広がる。
社長は、俺達をジッとにらみながら1冊の雑誌を開いて見せてきた。
「明日発売の週刊誌の記事です」
そう社長が示すページには、俺と…今現在俺の隣で不貞腐れたような顔で立っているノエルが写っていた。
問題なのはその内容が、ただの2ショットではないことだ。ノエルが俺の肩に腕を回して、キスをしているのだから。
「これの説明は?できる?」
“言い訳はできるのか”と聞かれているようだった。
ノエルがなんか答える前に俺は口を開いた。
「この間の打ち上げで、酔ったノエルがキスしてきたんです。ノエル、酔っ払うとキス魔になるんですよ」
ペラペラと白々しい言葉を並べた俺に、社長はしばらく射るような視線を送っていたが、ハァと小さく息を吐いて雑誌をパタンと閉じた。
「…とにかく、注目される立場なんだから、軽率な行動は謹んでくださいね」
「はい。ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
俺1人分の声が、室内に響いていた。
長身を活かして高校生からモデルの仕事をしていた。ノエルと出会ったのは二十歳のとき。成人式のスーツ企画で一緒になったのがきっかけだ。フランス人の母を持つ帰国子女のノエルは、日本人離れした綺麗な顔と手足の長いスラリとした長身で当時からモデルとしての人気は高かった。対して俺は、細々と読者モデルとして雑誌に掲載されていた程度だったけど、そのスーツ企画で一気に人気がでた。おかげでそのスーツ企画を掲載した雑誌の専属モデルとなって2年。小さいけれど事務所にも所属して人気モデルとして名前が知れ渡るようになっていた。
ただ、基本的にはノエルとセット。それが俺のポジションだった。スーツ企画のときに、カメラマンの指示で俺がノエルのネクタイを締めているショットを撮られたんだけど、それがなぜか女性人気に火を点けたらしい。
以降、ほとんどの撮影はノエルと2人。本来は若い男性向けのファッション誌だけど、俺とノエルが一緒に掲載されるようになってから女性の購入者が急激に増えたのだとか。2人でCMに起用されたり、テレビやイベントに出演したりとそこそこ活躍しているのだ。
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