ツンデレ恋人のサプライズ。
真冬には元ホストのそっけない恋人、シグレがいる。俗に言う『ツンデレ』というものだ。同棲をしているものの、仕事から帰ってもゲームに夢中で自分を見ることがないシグレ。しかし今夜のシグレだけはいつもと違った。『セックスしよ』と珍しくシグレの方から誘うが、真冬が断ると『家を出てく』と言い出し──。
家に帰ると恋人が満面の笑顔で出迎える。
それは誰もが理想とする幸せな光景。
だけど、俺の恋人に『おかえり』と言って愛嬌を振りまく素振りなど全くない。
*****
「ただいまー」
仕事終わり、いつものように鍵を開け、声をかけながら家へと入る。
リビングの明かりはついているものの、返事はない。
廊下を進み、扉が開いたままのリビングにため息をつきながら入れば、いつものようにソファーの上でスマホゲームをするイケメンがいる。
彼こそが俺、風早真冬の恋人『シグレ』だ。
元ホストの源氏名、『シグレ』。
ホストを辞めてからはゲーム三昧のニートを満喫している。
「シグレ、ただいま」
「ん」
「飯は?」
「んー」
これは食ってないな、とため息をつく。
シグレはとてもそっけない。恋人が帰ってきて視線を向けないほどには。
だからこそ不思議でならないのだ。
なんでシグレがホストを辞めてまで俺についてきたのかが、いくら考えても答えが出ない。
「シグ──」
「ねぇセックスしよ」
その言葉に冷蔵庫を開けようとする手が止まった。
「…急にどうした」
「なんとなく」
「悪いけど、今日は疲れてるから明日にしないか? いつも金曜日にしてるだろ」
口を開いたと思ったらまさかのお誘い。
嬉しくないわけではないが、疲れてるなか帰ってきて顔もあげない恋人を見たらそんな気なんて起きない。
水を出そうと冷蔵庫に手を伸ばしたとき、
「ねぇっ!」
シグレの声が珍しく響いた。
振り向いた瞬間、背中から抱きつかれてお腹にシグレの腕が回る。
「どうしても、したいから」
「…本当に疲れてるんだ」
「……」
静かな沈黙が数秒起きる。
そしてシグレは『わかった』と声を出した。
腕がほどかれ、背中から温もりが離れる。
「それなら俺、出てく」
「…は?」
「だって俺のこと嫌いなんだろ。俺のカラダをこんなふうにしたくせに」
ゆっくりと振り向けば、シグレが悲しそうにうつむいていた。
ダボダボのTシャツは俺のもので、下はボクサーパンツがチラリと姿を現す。
これはもう、金曜日の夜の姿だ。
準備しているという暗黙の合図。
「あんたを求めてなにが悪い。男を欲しがるようにしつけたのは、あんたじゃん」
「…シグレ、ごめ」
「もう、いい」
背中を向けて歩き出すシグレの手首をつかむ。
強く手首をつかみ、自分のもとに引っ張ると抱きしめた。
「シグレ、ごめん。でも、俺…」
「ねぇ」
「なに?」
「最後にキスしたのいつだか覚えてる?」
その問いかけに俺は思い出す。
だけど、今週、彼とキスをした記憶が出てこなかった。
毎日帰ってくるとしていたキス。
シグレがゲームをしていても、必ず毎日していた。
でも、今週はした覚えがない。
「ごめん」
「…たたないなら触りあうだけでもいいから」
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