夜のオフィスで味わった最低で儚い快楽

・作

1人残業している黒川雄輝(くろかわゆうき)のオフィスに入ってきたのは、同じ部署で働く樋口涼夜(ひぐちりょうや)だった。雄輝にとって涼夜は思い入れの深い後輩であると同時に、特別な想いを寄せる相手でもあった。2人きりになったオフィスで雄輝は涼夜に衝撃の告白をされる。涼夜が雄輝にした告白とは…?

(せめてこれだけは終わらせないと…)

焦燥混じりに心中で呟きながら、黒川雄輝はノートパソコンの画面を見たまま指先を動かした。

(残業なんて、今日はなんてツイてないんだ…)

雄輝は再び心中で呟きながら、チラリと腕時計を見る。

それが示すのは20:00の数字。

刻々と進んでいく時間と残る業務。

「はあ、」

それらに彼は思わずため息をついた。

しかし、残業になったのは集中しなかった自分の責任。

そう自身を叱ると、彼は液晶画面とのにらめっこを再開した。

カタカタ、カチッカチッ。

ガラス張りの会議室にコンピューター機器の音だけが響く。

(あと少し)

順調に業務を片付けていると、ガチャっとドアの開く音がした。

「まだ居たんですか、黒川先輩」

疑問混じりに言いながら会議室に入ってきたのは、同じ部署の樋口涼夜。

彼の姿を捉えると、雄輝はギョッと目を見開いた。

2年遅く入社した涼夜は、雄輝の後輩で入社時は教育係も務めていた。

職場で思い入れの深い後輩。

しかし雄輝は、それとは異なる特別な感情も抱いていた。

「…君こそ、どうしてこんな遅くに」

鼓動や言動の僅かな乱れを悟られないよう、落ち着いて話題を振る。

「忘れ物を取りに来ただけッス」

(終わったっ)

幸運にも業務がノルマに到達した雄輝は、いそいそと精密機器をカバンにしまっていく。

「帰り、気を付けてください。先に失礼します」

(平常心が乱れる前に…)

しかし、そんな切望を涼夜はあっさり壊そうとする。

「どうしてオレを避けるんですか?」

「…避けるなんて、人聞きの悪い」

苦笑混じりに応えて腰を上げると、雄輝はそそくさとこの場を去ろうとする。

「だったら、」

しかしそれより先に、涼夜はドアを施錠して逃げ道を奪った。

「もう少しオレと話しませんか?」

涼夜の顔に無邪気な笑みが浮かぶ。

しかし、そんな彼の表情が雄輝は怖かった。

「…用事があるので、またにしてもらえないでしょうか?」

後退って距離を取ると、涼夜が同じだけそれを詰める。

「知ってますよ、先輩がオレを避ける理由」

「だから避けてないです」

応えたと同時にガタッと雄輝の背中が壁に着く。

その瞬間、涼夜の笑顔が不敵なものになった。

そして、先を続けた。

「オレに恋愛感情を持ってるから」

突かれた核心に、雄輝は全身の体温が低下するのを感じた。

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