鏡写しの真偽

・作

長いあいだ因縁の関係だった、呪い屋のアルベルトと騎士のユール。ユールはアルベルトの首を取ろうと必死だったが、無理やり飲まされた媚薬によってユールのその意思は崩れていく。すっかり熱に浮かされてしまったユールは、もはやアルベルトの体を求め始めていて……。

 軍馬(ぐんば)とは違う、柔らかい、人の体。嫌いな体。憎い体。

「ユール、どうした。動かさないと気持ちよくならないだろう。お前が自分で動くと言ったんじゃないか」

 アルベルトの地をはうような声が、密着する下肢を伝って地鳴りのように響いて背筋を震わせた。
 その無防備にさらされた首を握ってしまえば、積年の恨みは晴れるのに。

 俺は彼の性器を腹の中に埋められて、気持ちも体も狂わされていた。

「騎士なら馬乗りの腰づかいはお手の物だろう。ほら、どうした。さっさと動いたらどうだ」
「黙れ。人の体を勝手に操っておいて……小言の多い呪い屋だな……っ。それも全部、言霊か。魔力を無駄使いするなんて感心しないな、っ」
「失言の多い騎士め」
「っ、あッ」

 足の付け根をつかまれて、グンッと腰が上げられ思わず声が漏れた。
 まるで快感のムチで打たれたみたいだ。頭のてっぺんまで走る電流のような刺激に背が波打つ。両腕を後ろ手に縛られていて、ヘタしたら彼の胸に溶け落ちてしまいそうだった。
 いっそのこと首を噛んでやろうかとも思ったが、全身を透明の縄で縛られてるみたいに、馬乗りの状態から自由に動くことができなかった。

「外道め……終わったらその首を切り離して、殿下と対面させてやる」
「ほう。いまの自分の立場がわかっていないようだな」

 見上げるアルベルトの視線はまるで闇から獲物を狙う獣のようだった。獣は俺には聞こえない呪文を口にした。
 ロウソクの明かりを無数に反射する鏡が大量に現れ、それらは浅ましく繋がる俺たちを円になって囲んだ。顔を伏せても床の方までたくさんの鏡がこちらを向いている。

「悪趣味な……っ」
「強気なのはいいことだ。せいぜいその気の強さを保つことだな。その方がこちらも盛り上がる」

 アルベルトは「ああ、それと」と言ってまた口を動かした。

「ンッ、う、んぐ、」

 彼の右手の中にパッと現れた、ガラス瓶に入った緑色の液体を口に流し込まれた。胸焼けするほど甘く、しかし香辛料のようなツンとした液体。
 緑色の液体がカラになると、彼の手のなかのガラス瓶は再び一瞬にして消えた。そして空いた手の平は、俺の口を塞いだ。

「──ッ、ン、ッ」
「いい締めつけだ。そのままずっと口に含んだままでもいいぞ。どうせ飲み込まずとも口内の細胞が吸収し、効果はでるしな」

 アルベルトは口角を上げてそう言った。
 そうは言われても、飲み込むのも嫌だ。でも、だからといってどうしたらいいのか……ああ、頭がまわらない。頭の中も、体も、まるで風邪をひいたときみたいに熱い。
 熱の中心は、下半身の一点。ぐちゃぐちゃに濡れた結合部が、一番の熱を持っていた。

「はは。お前の性器、また膨らんだぞ。今でさえこんなにダラダラとだらしなく体液を垂れているというのに、その薬が効いてきたら一体どうなるんだろうな」

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