小説家は淫蜜な罠を仕掛ける (Page 2)

*****

数日後。

「また会えて嬉しいよ、成海君」

「こ、こちらこそ…」

ホテルのレストランで、成海は風野と向かい合って座っていた。

サイン会の日、帰宅した成海が勇気を出してメッセージを送ってみると、すぐに風野からの返信があった。

何度かのやり取りの後に、「小説の参考にしたいから、成海君のことを教えてほしい」と誘われ、二人きりで会うことになったのだ。

「この仕事をしていると、なかなか若い男の子と知り合う機会がなくてね。キャラクター作りに活かしたいから、今日はいろいろとインタビューさせてよ」

気さくに接してくる風野に、成海は恐縮した。

「本当に僕が、先生のお役に立てるんでしょうか?」

「もちろんだよ。ほら、美味しいものいっぱい食べて、楽しくお喋りしよう」

風野は爽やかにウィンクしてみせると、慣れた仕草でウェイターを呼んだ。

*****

最初こそ口数が少ない成海だったが、聞き上手の風野にリードされて、気付けばすっかり打ち解けていた。

「お仕事、頑張ってるんだね。花屋だなんて、成海君のイメージにぴったりだな」

「いえ、そんな…」

風野は自身の笑みを深めると、意味ありげに問いかけた。

「じゃあ、次は成海君の恋愛について教えてもらおうかな。恋人はいる?」

成海の顔が、見る見るうちに赤くなる。

「先生、ごめんなさい。僕、今まで誰とも付き合ったことがないんです」

恥ずかしそうに打ち明ける成海を見て、風野は意外そうな表情をした。

「謝ることはないよ。そうか、モテそうなのにな。どんな人が好み?」

「それは…」

以前の成海であれば、それは風野の小説に出てくる男性だった。

でも、今は。

「風野先生みたいな人が、好きです」

勇気を出して答えた成海だったが。

「…あれ?」

突然、身体がカーッと熱くなった。

心臓の鼓動も速くなっている。

頭の中が、薄いベールがかかったようにぼんやりしていた。

「どうしたの?具合が悪い?ホテルの部屋で休もうか」

風野の声を遠くに聞きながら、成海は力なく頷いた。

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