気難しい先輩とオレの相性について (Page 3)
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なるべく彼の方は見ないようにして、オレは自分の体をガシガシ洗った。
よく考えたら今日は早川さんと一つのベッドで寝るのだ。
いくらキングサイズのベッドでも、臭かったりしたら申し訳ない。
「おい、いっつもそんな洗い方してるのか? 肌傷つくぞ」
ははっ、と笑う声が背後の湯船から聞こえて、オレは夢中になっていた動きを止めた。
「いやー…今日めっちゃ汗かいたんで」
そう言って笑い返すと、彼は、
「なんだそれ。お前いっつもいい匂いしてんじゃん」
と優しい声色で言った。
「え、ええ?」
「なんか付けてんの?」
「いや、たまに制汗剤くらいですかね」
「ふーん。イケメンは匂いまでかっこいいのな」
「えっと…」
反応に困り、なんだか気恥ずかしくなってオレは体を洗うのをやめる。
シャワーできれいに流して、お邪魔します、と心の中で呟きながら湯に体を沈めた。
広いと言っても、さすがに男二人で入るとどこかが触れ合いそうだ。
本来なら、男女が触れ合いながら入る場所なのだから当たり前なのだけれど。
オレは落ち着かなくて、気を紛らわせようと口を開いた。
「早川さんこそ、いい匂いしますよね、いつも」
「はぁ?」
「仕事中、すれ違ったときとか、思ってました。なんだろ、爽やかなんだけどちょっと甘い匂いというか」
「そ?」
「はい」
一瞬、沈黙がおちる。
しかし、すぐに早川さんがそれを破った。
「いい匂いって感じる相手って、相性がいいんだってよ」
「…え?」
「遺伝子が近いと、丈夫な子が生まれないから、親子とか兄弟は臭く感じる。遺伝子が遠い、相性がいい相手はいい匂いに感じるって、聞いたことある」
「へぇ…」
「俺たち、相性いいかもよ」
呟くように言われたその言葉に、オレの心臓は驚くくらい大きく跳ねた。
ふわ、と全身が熱くなって、息が詰まる。
何も言えないまま錆(さ)びたブリキのようにぎこちなく彼の方へ顔を向けると、ばちりと目が合った。
彼がフ、と、柔らかく、妖艶に笑う。
ちゃぷ、と水面が揺れて、オレの腕に何かが触れた。
彼の手だ。
瞬間全身があわ立って、オレは大きく息をのんだ。
「杉野、」
近づいてきた早川さんの声が、耳元で響く。
「…確かめてみるか?」
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