無自覚恋愛 (Page 3)

家に帰ると母さんはいなかった。

今日のパートは夕方からって言ってたような気がしたけど。

「あ。みつき、おかえり」

「ゆずき……おまえ、講義は?今日は午後までビッシリ入ってんじゃなかったっけ?」

「んー。ちょっと気分じゃなかったっていうか」

「ふぅん?具合悪いなら寝てろよ。はちみつレモネード作ってやるし」

「みつきってさぁ、なんていうのかなー。あれだよね」

「は?」

「鈍感」

手を洗って、大学に持って行った水筒を出して洗う。

冷蔵庫の中を確認して、昨日の夕飯の余りものと、豚肉とニンジンの切れ端と卵でチャーハンが作れそうだと考えごとをしていたら、背中に生温かい感触が。

「なんだよ。病人は寝てろって」

「違うよ、みつき。俺は~誘ってんのぉ」

「……はぁ?」

俺より上背がある、ゆずき。
重い。

少しずつ体重をかけられて、冷蔵庫にガタンッと体が押しつけられた。

「腹減ってるだけだろ。すぐ作るから座って待ってろ」

「みつきが作るチャーハンおいしいもんね~」

膨れっ面のゆずきは、不満ですって顔のまま、食卓の椅子に座った。

聞き分けがいいんだか、悪いんだか。

「熱はねぇの?」

「ないよ。調子悪いわけでもないし」

その後はしばらく、二人して無言だった。

できあがったチャーハンを二人分、テーブルに並べて、一応、ゆずきにははちみつレモネードも作ってやった。

「ゆずきってさ、彼女できたんだよな?」

「急に何かと思えばそんな話?誰が噂したのか知らないけど彼女なんていないよ」

「ふーん。そっか」

「みつきこそ、青山さんだっけ。仲いいよね。付き合ってんの?」

「青山さんには学年首位の彼氏さまがいるって。俺とはなぁーんにもない」

「みつき、高校の時も恋愛相談ばっかり受けてたのに結局、彼女できなかったよね」

「俺なんかと付き合っても面白くないだろうしな」

本気で付き合った子がいないわけじゃない。

中学生の頃、すごく気が合う子がいた。

何を話しても面白かったし、いい意味で気をつかわないでいられた。

でも、高校受験を控えたある日、彼女は父親の都合とかで引っ越した。

俺はその話を友だちから聞いた。

別れが寂しかったんだろうとか、辛かったから話せなかったんだろうとか、慰めてもらったけど、そんな大事なことを彼氏に言わないって話、ある?

俺は信用されてなかったんだ。

それから恋愛には消極的。

「顔は似てても、みつきと俺は別人格だよ」

チャーハンも食べて、レモネードも飲み、ゆずきは、ごちそうさまと手を合わせた。

「みつき、今日、バイトなくなったんだろ?」

「ああ。でも、溜まってるレポート書かなくちゃいけない」

「手伝おうか?」

「いいよ。そんなにヤバイ量でもないし」

遠慮した俺に、じゃあ、食器の片づけはやっておくから、と、ゆずきは軽く笑んだ。

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