無自覚恋愛 (Page 6)
「あ。みつき、やっと起きてきたわね。ほんと、あんたは一度寝ると、なかなか起きないんだから!」
「……あの、それ、なに?」
「保護猫活動しててね、うちでも何匹か、お世話してあげることになったのよ」
見慣れる物体がある。
母さんの説明によれば、キャットタワーとかっていうらしい。
「ゆずき、聞いてた?この話」
「母さんが猫好きなのは知ってたけど」
ゆずきもあきれ顔。
「お世話って、うちで猫、飼うの?」
「そうよ。飼うっていうか、一時保育みたいなものね、これも大事な活動の一つ!大丈夫!父さんにも連絡してあるから!」
「まぁ、俺は別に猫、嫌いじゃないけど……」
「みつきも、ゆずきも、昔から動物好きだったじゃない?だから、私がいないときは世話してあげてほしいのよ~!ね、お願い!」
「そういうのって、前もって話しておくべきじゃない?単身赴任してる父さんよりも先に、俺たちに……」
正論を語る、ゆずきに母さんが、こそっと耳打ちしていた。
「いいの?ゆずき。母さんね、知ってるのよ……犬や猫よりも、あんたがず~っと一番に好きなもの」
俺には母さんが、ゆずきにどんな話をしたのか、わからなかったけど、ゆずきの眉間にしわが寄ったのを見て、ああ、何か弱みを握られたな、と思った。
「お世話する猫は明後日くらいにつれてくるからね~!じゃ、母さん、今からパートだから~!」
大学生の子を持つ親にしては若々しすぎるメイクをした母親を見送り、俺はキャットタワーを見て、ため息をついた。
猫かぁ。
猫……、そっか、猫が来るんだ。
小さい頃は、まだきちんと面倒をみられないでしょとかって飼わせてもらえなかったんだよな。
そっか。
うちで猫、飼えるんだ。
「みつき、俺よりも猫の世話ばっかりしないでよ?」
「バカ。猫は世話してもらわなきゃなんねーだろ。ゆずきは自分で色々できるんだから」
「人間に嫉妬するより、猫に嫉妬しろって言うんだ?」
「は?」
「俺たち、両想いなのに。ひどくない?」
「ちょっと待て。何の話?」
盛大なため息をついて、ゆずきは俺を見つめた。
「どこまで鈍感なんだよ」
「いや、だから、何の話だよ」
ゆずきは遠くを見つめ、しばらく動かなかった。
Fin.
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