【悲報】飼い犬に童貞処女を奪われました! (Page 5)
「ロン、聞いてくれる?前に話したボート部のマネージャー…清音さんって子なんだけど」
他人から見たら、リードで繋いでいる犬に向かい、普通の声のボリュームで話しかける大学生って変わった人に思うよね。僕はロンがわかっているのか、いないのかポヤンとした表情で見上げてくるのが嬉しくて、ついついお話してしまう。本当のことを言えば、弟同然の彼をリードで繋ぐのは嫌なんだけど、やんちゃな一面もあるし、こればっかりは仕方ない。
「彼女、僕になんか興味ないだろうけど、本当に可愛い子なんだ。いつもニコニコしてて…でも芯があって、人に流されたりしないっていうか。チャンスがあるなら、清音さんに告白してみようかな…」
“ロンに話したって理解できないよね?”と彼に向かって微笑み掛けると、ロンはめずらしくそっぽを向いてしまった。そういえば、ガレージを開けた時には勢いよく駆け寄って、ブンブンと振っていた尻尾も、だらりと下がっている。
「もしかして、具合でも悪いの?熱中症かなぁ…」
ロンの額に自分のおでこをくっつけてみる。彼は毛に覆われているから、熱があるのかどうかハッキリとはわからないけれど、毎晩嗅ぐお日様のような香りが僕を癒した。
ベロッ
「ひゃあっ!」
くっつかれたのが嫌だったのかな。ロンが“もういいから”と言わんばかりに、僕の鼻先を舌で舐め、抵抗してきたので、思わずマヌケな声が出てしまった。
「こらぁ~ロン!びっくりするじゃない!」
犬とおしゃべりして、イタズラされて怒るなんてやっぱり変な人だよね、僕…当のロンも少し怒った顔をして、荒い息を吐いているから、いつもの散歩コースである河川敷沿いに早く行きたくてウズウズしているんだろう。
それにしても、鋭いキバで噛まれなくてよかった。ロンが子犬の時、寝顔が可愛いくてお腹をくすぐり続けてたら、寝ぼけた彼が腕を噛んでしまったことがあったんだ。痛がる僕を見て、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべているのがまた、可愛いかったんだけど。
生まれてからたった3年。人間で換算すると20代半ばのはず。今はロンの方が僕よりお兄さんなのかな――3年前は彼が来てくれた嬉しさのあまりに、忘れていたけれど、出会いがあれば別れもある訳で…彼の成長速度を見ていると、あと10年もしない内にそれが訪れるかもしれないってことが、とても恐ろしく思えた。
「ロン、ちょっとここで休もうよ。君だって疲れたでしょ?」
河川敷の階段を数段降りて、腰掛ける。ロンも隣にお座りをして、2人で夕日を見ていると――。
「小野くん。このクレープ、とっても美味しいんだよ。少しでいいから食べてってば!」
馴染みある声が頭上から聞こえてきて、振り返る。そこにいたのは、僕の想い人――ボート部のマネージャーである清音さんと、キャプテンの小野先輩だった。
「いらねぇよ。そんな生クリームだらけのなんて…いいから、さっさと歩け。お前の速さに合わせてると、家に着くのが夜中になっちまうだろ」
「えー、酷い!そんなことないよっ!」
あの清楚で無垢(むく)な清音さんが派手な化粧をしていることに、まず驚く。スカートだって短くたくし上げているし、何より、小野先輩と指を絡めて手を繋いでいるのだ。僕は、清音さんが小野先輩の口元に食べかけのクレープを近づけている姿を見て、確信した。2人は付き合っているんだ。
ショックのあまり、その場にいられなくなった僕は、ロンを引きずるようにして家へと逃げ帰った。
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