【悲報】飼い犬に童貞処女を奪われました! (Page 6)
「清音さんと小野先輩が付き合っているなんて…僕の知っている清音さんは、あんな格好で遊ぶような人じゃないのにっ…」
ガレージの中で、ロンのリードを外してやった僕は、告白どころかまともに話し掛けたことすらない相手への一方的な失恋で悲しみに打ちひしがれ、しゃがみこんでしまった。コンクリートの床が、涙によって濡れていく。
「どうして僕はこんなに意気地なしなのかなぁ…ロン、お前も僕がダメな飼い主だって笑ってるんだろ…?」
こうなったら、弟分である彼に慰めてもらおうと、散歩で疲れてお座りをしていたロンを仰向けに寝せ、その柔らかい胸毛に顔を近づけた。うん、やっぱりこの香り、安心する…。ドッグセラピーというのがあるけれど、じんわりと温かい彼の胸に抱かれるのは、極上の気分だった。さっきとは違い、彼は僕に抱きしめられている間、嫌がる素振りを見せず、顔を擦り寄せては涙の痕をペロペロと舐め――。
「バカりょーた。そんなに泣くな…!お前には俺がいるじゃねぇか」
と囁(ささや)いた。
――囁いた!?『ワン』とか『くぅーん』としか口にしたことのない犬が、突然人語を話せるハズがない。
「え…?」
目の前で揺れる栗毛はロンの毛並みと似てはいるけど、犬のような柔らかさは消え、頬を掠める感触はどう考えても髪の毛だ。
「しょっぺー…」
僕より頭ひとつ分大きい男の人は、舌をベロっと出して身震いした。頭頂部だけが短く、襟足が長いウルフヘアが揺れ、日本人とは思えないコバルトブルーの瞳が切れ長の眉下からビー玉のように輝く。
「う、うわァァ!!」
突然の行いに僕は悲鳴を上げた。だってこの男の人…すっぽんぽん――全裸、なんだもん!
「ろ、ロンっ!ロンっ!!」
飼い主がピンチ…全裸の変質者に襲われているなら、彼がすぐに噛みついてくれるだろう。そう思って名前を呼んだのに、ロンは僕を助けてはくれなかった。
「やだぁ!こっちにこないでぇ…ぁ…!…ぅ…んっ…」
それなら家の中にいる両親に助けを求めようと、大声を上げようとしたところを、素性の知らない男の人に口をふさがれ、止められる。生暖かい感触。ぴちゃり、と音を立てて忍び込む熱い塊が舌の上を這っていく。僕の鼻先に掛かる相手の呼吸が荒くなり――苦しい、息ができない…もしかして僕、知らない人とキスしてるの?
「――はァ…下手くそ…」
そう呟きながら彼は、互いを結ぶ舌先の糸を指で絡めとり、官能的にしゃぶった。
「…っひっく…ぅう…」
突然現れた青年に初めてのキス…しかも舌と舌とを絡め合う、えっち過ぎるキスをしてしまったことへの驚きで、気がつけば声を出して泣いていた。でも、不思議と彼が怖い訳ではない。
見知らぬ相手に乱暴されて、怖くないなんておかしいと思うのに、彼の瞳や指が何かに酷く怯(おび)え、震えているのに気づいてしまったから。
「…亮太…悪い…まさか願いが叶うなんて思わなくて、つい…。苦しかったろ?もう絶対、亮太の嫌がることはしないから許してくれ…」
我に返ったのだろうか。青年は大きな身体を縮めるようにして項垂(うなだ)れたかと思うと、僕を力いっぱい抱きしめた。男の人の筋肉質な胸板なんて気持ち悪くて仕方ないのに、やっぱり彼には嫌な感情が沸いてこない。それどころか、安心するあの太陽の香りがしていたんだ。
「君…ロンなの?」
素肌を晒す青年に抱きしめられた格好で、彼の背中に腕を回す。ロンは僕に撫でられると幸せそうに目を細めるんだ。
「あぁ…俺だって信じられねぇよ。でも、これを見てみろ」
青年――ロンは、自分の脇腹を指差して口角を上げた。“これが証拠”だと。
そこには、大きな手術痕が痛々しく残っていて、顔をしかめてしまう。ロンの身体に傷をつけたのは僕なんだ。
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